自閉性障害のある児童生徒

http://jupiter.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_b/b-184/b-184.pdfここに貴重な情報

表1 高機能自閉症・アスペルガー症候群の定義案 (文部科学省,2003)

高機能自閉症
3歳位までに現れ、
①他人との社会的関係の形成の困難さ、
②言葉の発達の遅れ、
③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、
知的発達の遅れを伴わないものをいう。
また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

アスペルガー症候群
アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。
なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害(PDD)に分類されるものである。
本定義は、DSM-Ⅳを参考にした。

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1.高機能自閉症・アスペルガー症候群とは?
① 高機能自閉症・アスペルガー症候群は、自閉症グループに属する発達障害です。
② 100~200人に一人ぐらいいると言われています。
③ 最近になって知られるようになった障害です。
④ 家庭環境の問題やしつけ不足が原因で起きるものではありません。
⑤ 従来の自閉症のイメージや障害児の概念とは、かなりかけ離れた子どもたちです。
⑥ 言葉の遅れがなかったり学業成績が良いこともありますが、広範囲にわたる発達上の困難を抱
えています。
⑦ 集団での活動が苦手だったり行動上の問題を起こしやすいために、わがままな子と思われてい
るかもしれません。
※ 知的障害を伴う自閉症児と同様の次のような困難を持っています。
① 物事の一部分に注意が集中しやすく、全体の状況をつかむことが困難。
② 一度に一つのことしかできない。
③ 最初に覚えたことを、なかなか変更できない。
④ パターン化した行動を取ることがある。
⑤ 融通が利かないように見えることがある。
⑥ 人とのかかわり方に大きな特徴がある。
⑦ 独特な言葉遣いをしたり、変わった話し方をする。
⑧ できることとできないことの差が激しい。
⑨ 過去の出来事を突然思い出して(フラッシュバック)、その場に全く関係のないことを言い出し
たりする。

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2.高機能自閉症、アスペルガー症候群の児童生徒と接する際の留意点

一見、普通の子どもと変わりませんが、高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもは、自閉症とし
ての特有な困難を抱えています。「人にではなく物の方に関心が向きやすい」、「通常ではささいなことと
思えるような事柄に強い苦痛を感じパニック状態に陥ってしまう」、「奇妙なしぐさをしたり反復的な行
動をする」といった症状がみられることもあります。
一人一人の違いも非常に大きく、個々のニーズに応じて、個別的な支援や配慮をすることが不可欠で
す。ここでは、よく見られる代表的な特徴とその支援法について簡単に述べてみます。

(1) 人とのかかわり方
全く人と関わろうとしないことはありませんが、形式的だったり、一方的だったりします。かかわり
がないと言うよりも、人とのかかわり方が不適切と言った方が正確です。
人の方を見る、顔の表情や身振りなどから人の気持ちを読み取る、顔の表情や身振りなどで自分の感
情を表すなどの身体的(非言語的)な行動に問題があって、そっけない子・奇妙な子とみられていること
もあります。集団生活はできるものの一人でいる方が好きという子どももいますが、友だちができない
ことに悩んでいる子どももいます。

(2) コミュニケーションの問題
高機能自閉症・アスペルガー症候群の子どもでは、言葉を話すことはできます。しかし、言葉を自分
の意思を人に対して表わす手段として使っていない、相手が聞きたいと思っていることを答えない、最
後まで話が噛み合わない、遣り取りのある会話になっていないといった様子がみられます。話すことは
できるけれど、コミュニケーションが成立していないのです。
また、言葉の表面的な意味しか分からない(字義通りにしか解釈できない)、慣用表現の意味や言外の
意味が分からない、独自の決まり文句や本人にしか意味の通じない言葉を使う、漢語的表現を多用する
といった特徴がみられることもあります。
このようなコミュニケーション障害に基づく言葉の問題が原因で、トラブルが生じていることも非常
に多いものです。

(3) 指示の出し方
人に注意が向かない、自分に向かって話されていることや自分に対して指示されていることがわから
ない、音声として聞き取って行動しているものの本当には理解できていないi、口頭の指示だけでは理解
できず文字や絵などが必要、(視覚と聴覚といった)複数の情報を同時に処理することができないなどの
困難がみられることがあります。
自閉症児すべてに共通する方法があるのではなく、絵や図にした方がわかりやすいという子どももい
れば、言葉にした方がわかりやすい子どももいます。目で見た方が指示が通りやすい子どももいれば、
耳から聞いた方が指示が通る子どももいます。どちらの場合でも、「指示や情報はシンプルに提示する」
「できるだけ省略を避け、何が起き・何をすればいいのか明確にする」といった配慮をすることによって、
トラブルを避けることができるでしょう。

(4) こだわり行動と固執
こだわり行動の中には、不安やストレスを解消するために役に立っているものがあります。時と場所
を選んで個人的に行っているこだわり行動は、特にやめさせる必要はありませんが、社会的に好ましく
ないもの、人に迷惑をかけるもの、エスカレートすると自他共に差し障りが生じると予想がつくものな
i ずっと後になって本当の意味がわかり、突然、思い出したように話し出すことがあります。
どは、制限を加えて妥当なものに変えていく必要があります。
物事の順序に固執する傾向がある場合には、はじめから全部を変えさせようとせずに、最も変えやす
い一部分だけを変更することから取りかかる、初めてのことをする時には順序への固執を逆に利用する、
というような工夫が必要なこともあります。急な予定変更に対処できないこともあるので、「予定の変更
はなるべく避ける」「やむを得ず予定を変更する時は前もって伝える」といった配慮が必要なこともあり
ます。
自閉症児には、「先の見通しが立つようにスケジュールを予め伝えておく」と良いと言われていますが、
時間の概念ができていない段階の子どもの場合は、「言われたことがすぐに起きるもの」と思ってしまう
こともあります。また、あまり早くから伝えると気になって他のことができなくなってしまう子どもも
いるので、個別対応が必要です。

(5) インフォーマルな活動が苦手なこと
休み時間や休日などの自由な時間に、何をしたらよいのか分からないという自閉症児は多いようです。
一般に、任意の小グループに分かれて、その場の話し合いで変わっていく活動に参加することが苦手で
す。
高機能児の場合には特に、休み時間や放課後などのインフォーマルな時間に他の子どもたちの行って
いる活動そのものに興味がないといった問題もあります。自由な時間には、(こだわり行動を含む)好き
なことをやっていたい、図書館や理科室などで興味のあるものを見ていたいと思っていることもありま
す。運動機能の遅れがあって、スポーツやリクリエーションに参加することが苦痛なこともあります。

(6) 感覚の特質
聴覚・視覚・触覚・味覚・嗅覚・前庭覚などの感覚が過敏だったり鈍感だったりすることがよくあり
ます。聴覚が過敏で特定の物音や甲高い声に苦痛を感じたり、触覚が過敏で身体接触や衣服の材質に強
い不快感を感じるといった症状を持っている子どもが比較的多いようです。問題行動と呼ばれているも
のの中には、このような感覚の特質に基づく行動がかなりあります。感覚の特質のために引き起こされ
る問題には、以下のことが挙げられます。
① 集団活動や行事に参加できない。(例えば、聴覚が過敏で音楽の授業が苦痛。不快な臭いのする
特定の教室に入れない、など。)
② 突然の物音や特定の物音などでパニックを起こす。
③ その場ではあまり大きな反応をせず長期間我慢し、身体症状や突発的な不適応行動となって現
われることもある。
④ 聴覚・視覚など特定の感覚に注意が向きやすく、何か聞こえたり見えたりする度に活動が止ま
ってしまう。
生来の感覚的なことなので、無理強いは禁物です。環境の方を変えることがベストですが、経済的・
物理的に不可能な場合は、不快な刺激ができるだけ少なくなるように工夫したり、不快感を取り去って
ストレスを解消するための手段を持たせるなどの配慮をします。感覚刺激そのものが苦痛な場合と、感
覚刺激によって注意がそれやすい場合とでは原因が違いますが、どちらも耳栓をするなどの工夫で対応
できることがあります。また、感覚刺激そのものが苦痛というよりも、状況がよくわからなくて不安を
感じている場合には、予測がついたり、(物音などの)理由や原因を明らかにすることで軽減するものも
あります。

(7)パニックや癇癪を起こしやすいこと
パニックや癇癪は、何らかの困難に直面していることを表わしていることが多いものです。そのよう
な時には、本人自身もどうしていいか分からず不安なのですから、パニックや癇癪を起こしたことを責
めても何の意味もありませんii。理由としては、感覚の特質が原因で起こることもありますが、本人の
発達レベルに合わない無理な要求をされている時に頻発します。いずれにせよ、努力によって克服すべ
きものと考えるのではなく、課題のレベルを下げて「本人にできる範囲でちょっと上を目指す」ように
やり方を工夫する必要があります。
パニックや癇癪を起こした時は、本人が落ち着いた後なるべく間をおかずに、本人の不安を解消する
ための理由説明を簡潔に行うことが大切です。時間が長く経ってしまった後では、何のことを言われて
いるのか分かりません。また、くどくどと説明すると効果が半減します。

<第二部> Q & A

【Q1】 人嫌いで孤独を愛する人のことを言うのでしょうか?
① 自分の気持ちを人に話そうとしなかったり、一人で離れていることがありますが、人嫌いでは
ありません。
② 逆に、積極的に人に話しかけて質問攻めにする子どももいますし、いつもおとなしく人の後に
ついていく子どももいます。
③ 顔の表情があまり変わらず、身振りなどで気持ちを表現することが少ないため、人がいても喜
んでいないように見えることがあります。
④ 触覚の過敏があって、人に触られたり抱きしめられることに苦痛を感じることがあります。し
かし、人に触られるのは嫌いなのに自分から人を触るのは好きで、ベタベタと触ってくる子ど
ももいます。
⑤ 一対一でなら人とかかわることができるのに、たくさんの人と同時にかかわることができない
子どももいます。(一見すると、何の問題もなく複数の人と接しているようですが、よく見る
と一対一のかかわりしか持っていないことがよくあります。)
ii ただし、その際に器物を壊したり他人に害を与えてしまった場合には、謝罪を免れるものではありません。
これは、ソーシャルスキルの一つとして重要です。(【Q11】参照)
⑥ 信頼のおける人としか話さなかったり、特定の人の言う事しか聞かなかったりすることもあり
ますが、人懐っこくて、初対面の人なのに旧知の仲のように振る舞うこともあります。
⑦ 人の心情にこたえるような対応や返事を期待しても、何も返ってこないことがあります。この
ような場面では、そのまま動きが止まってしまう(フリーズしてしまう)こともあれば、人の気
をそらすようなことをわざと言うこともあります。本人自身、どうしていいかわからないので
す。これは、障害特性から生ずるものです。

【Q2】 コミュニケーションが不足していると聞きましたが…。
① 幼児期に言葉の遅れが多少あった子どもでは、言葉の数が少なく、うまく話せなかったり、オ
ウム返しが多いといった症状が残っていることがあります。
② 逆に、言葉の遅れはなく、むしろおしゃべりなことがあります。しかし、やりとりのある会話
をすることができないために、「言葉はよく知っているのに、コミュニケーションになってい
ない」ものです。気持ちを表すために人に話すのではなく、知識を並べているだけのこともよ
くあります。
③ 保護者の話しかけが足りないために、言葉の遅れが生ずるのではありません。おしゃべりな場
合は、保護者が話を聞いてくれないので寂しくてよその人に話しかけているのではありません。
また、親子のコミュニケーションが不足しているので、他人と会話する方法を学習していない
のでもありません。
④ 言葉の遅れがなければ発達に異常はないとみられてしまい、コミュニケーションの障害がある
ことを見落とされてしまっていることがあります。

【Q3】 友だちがいないのは、家に閉じこもっているからでしょうか?
① 家に閉じこもって1人遊びばかりしていたり、ゲームばかりしているから、テレビやビデオば
かり見ているから友だちができないのではありません。
② 適切なやり方で人とかかわれない、やりとりのある会話ができないという困難を持っているこ
とが多くあります。そのようなケースでは、本人が不利益を被らないように、人とかかわるた
めの専門的なトレーニング(ソーシャルスキルトレーニング)などを行う必要があります。
③ 適切な対人関係を持つための機会を増やすことも大切ですが、やみくもに同年代の子どもと交
友させることにも問題があります。いじめられたり、本人が自信をなくしてしまう恐れがある
からです。
④ 集団行動に向いておらず、個別指導を主にした方が良いケースもあります。
⑤ 集団活動ができる子どもでも、仲介役の人(大人・子ども)をつけて保護しながら、時間をか
け、様々な場面での人とのかかわり方を教える必要のある子どももいます。
⑥ あまり一般的でないものに強い興味関心を持っている場合は、気の合う(共通の話題がある)
友人を、意識して探す必要があります。

【Q4】 人の気持ちが分からないと言われていますが…。
① 他人の表情やしぐさから感情を読み取ることが苦手で、他人が何をしようとしているのかわか
らないという困難を持っています。
② また、自分の感情を顔の表情やしぐさで表すことが苦手なので、他人の気持ちにうまくこたえ
られないことがあります。
③ かかわり方が一方的で、人の気持ちを無視しているように見えることがあります。
④ 他人に言われた通りのことしかできずに、気が利かないと言われることがあります。
⑤ 自分の考えを強く持っているので、強い信念の持ち主と賞賛されることもあります。しかし、
他人の好意にこたえないと思われてしまうこともあります。

【Q5】 そっけなくて薄情に感じますが…
① 自分の感情を言葉や顔の表情で表わすことが少ないのは自閉症の特徴の一つと言えますが、だ
からといって感情がないわけではありません。
② 発言や顔の表情から相手の気持ちを察し、不快感を与えないように振る舞ったり、自分が不利
にならないように配慮することも苦手です。
③ 儀式などの立ち居振る舞いを覚えることにはさほど苦労しないかもしれませんが、日常の場面
では「決まりきった挨拶しかできない」という印象を与えていることでしょう。
④ 人の顔を覚えることが得意な子どももいれば、人の顔を全く覚えられない子どももいます。ま
た、いつもと違う場所で普段と違う格好をしていると、知っている人だとわからないこともあ
ります。
⑤ 特定の色や音(例えば、赤い物やピアノの音など)、特定の興味の対象(例えば、電車や石など)
に注意が集中しやすいため、人がいることに全く気がつかないことがあります。

【Q6】 自分の思い通りにならないと怒ります。わがままなのではないでしょうか?
① 「自分の思った通りに進行しなかった」「自分の思ったような結果にならなかった」という予定
外の出来事に対応できないことは、自閉症児によくみられます。
② 認知面の偏り、感覚の特質、こだわり・固執といったさまざまな理由から、できないこと、わ
からないこと、苦手なことがたくさんあります。そのために、“いつもと同じ”であることを求
めていることもあります。
③ 社会的な学習の一環として「いつもいつも自分の思い通りに事が運ぶとは限らない」と事前に
教えたり、「我慢できたこと」を誉めると同時に、混乱した際に行動をコントロールできるよう
に粘り強く指導する必要があります。
④ 自分のやった行動に対して謝罪することも、必要なソーシャルスキルの一つです。しかし、単
に「ごめんなさい」を言わせることを目的にするのではなく、前項のような対応やトレーニン
グを行う必要があります。

【Q7】 人と目を合わせなかったり、へんな目つきをすることがあるのはどうしてでしょうか?
① 人と目を合わさないのは、自閉症児によく見られる特徴の一つです。
② 人は、自分に向かって話しかけたり何かを要求してかかわってくる存在です。人に視線を向け
られたり、人に見られることに侵入感を感じてしまうために、相手の方を見ないことがありま
す。 恥ずかしいのではなく、かかわりを持つことが難しいための行動です。
③ 特に、どう答え・どう振る舞って良いか分からない場面や対処し切れない過剰な要求に直面す
ると、不安感と恐怖心が強くなり、意識して視線をそらすようになることがあります。
④ 「人の目を見て話しなさい」と指導すると、逆に相手をにらみつけるようになってしまうこと
もあります。自閉症の特徴を踏まえた上で、ソーシャルスキルの一つとして失礼のないように
相手の方を見るように指導します。
⑤ 幼児期から学童期の前半にかけて人に注意が向かず、全く人を意識していないように見えてい
た自閉症児が、小学校の高学年ごろから急に他人の視線を気にし始めることがあります。ほと
んどの場合は、ちょうど思春期を迎える時期になってやっと他人が目を向けた方向を見ている
ことや自分の方を見ていることに気づき、過剰に気にするようになったと考えた方が良いでし
ょうiii。
⑥ 自閉症児は、自閉症特有の宙を見るような目つきをしていることがあります。また、何かをじ
っと見つめるといった行動をすることがよくあります。

【Q8】 ちょっとからかっただけなのに、本気にして怒りました。なぜでしょうか?
① 「ちょっとしたことで泣いたり怒ったりして大袈裟だ!」と思われてしまうかもしれませんが、
人づきあいの経験が足りなくて傷つきやすいのではありません。言葉の問題(主に、言語の使
用法)や、対人認知の問題(人の行動の意味や意図がわからない)といった理由が考えられます。
② 言われたことを真に受けてしまったり、言葉の表面的な意味しか分からないことがあります。
からかいや冗談は、禁物です。
③ 言葉の問題が原因の場合は、字面の意味と実際の意味との違いや、その言葉の持っている含み
(言外の意味)を、きちんと説明します。(「そんなつもりで言ったのではないのに。」と釈明し
ても通じません。)
④ 独特の感性を持っているので、普通ならなんでもないと思うようなことに怒ってしまうことが
あります。しかし、本人なりの理由が必ずあります。そのような時は、何に対して・どうして
怒ったのか本人に聞いてみましょう。(本人が答えられない場合は、専門の先生に聞くと良い
でしょう。保護者やきょうだいが、なんとなく分かっていることも多いものです。)
⑤ ささいなことに腹を立てていると思われるかもしれませんが、本人にとっては重大なことです。
頭ごなしに否定するようなことはしないようにお願いします。
iii 基本的には、失敗して恥をかくことや人からの非難を恐れるあまりに他人の視線が恐くなる「視線恐怖」(社会
恐怖や対人恐怖によるもの)とは異なるものです。ただし、能力以上の要求をされ続け、失敗経験や人から非難さ
れる経験を多くしていると、人に対して負の感情を抱く傾向が強くなり二次的な情緒障害を合併してしまうことも
あります。

【Q9】 ちょっとした音で大騒ぎします。我慢が足りないのでは?
① 我慢が足りないのではなく、音に敏感なのです。聴覚の過敏は、自閉症に非常によく見られる
ものです。
② このように、特定の感覚(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・前庭覚)が過敏だったり、鈍感だ
ったりすることが、よくあります。生理的なものなので、我慢させると強いストレスになりま
す。
③ 感覚的なものは、叱っても何の意味もありません。ただ、不快感や苦痛が大きいものでなけれ
ば、社会的な状況(いつ・どのような時に起こるか)が分かれば過剰な反応をしなくなること
もあります。また、成長するにつれて穏やかになっていくものや、本人の社会的な状況理解が
進むことでコントロールするようになることもあるので、現在の感覚の特質を常に把握してお
く必要があります。
④ 個人差が大きく、特に思い当たる症状のない子どももいれば、感覚の特質が社会的困難のかな
りのウエイトを占めている子どももいます。一人一人、個別に把握しておく必要があります。

【Q10】 注意したのに聞いてくれません。どうすればいいのでしょうか?
① 具体的に指示しないと、分からないことがあります。(例えば、「列に並んでください」と言う
のではなく、「○○さんと△△さんの間に入ってください」というように。)
② 日常的な何でもない表現の方が分かりにくく、難しい言葉(専門用語など)や標語などを用いて
指示した方がよく分かることもあります。(例えば、「電車が来る」よりも「電車が到着する」
というように。)
③ 物知りでよくしゃべる割には、言葉の意味がよく分かっていないことがあります。
④ 自分に向かって話しかけられていることが、分からないことがあります。その場合は、話しか
ける前に合図をしたり、気を引いてから話すようにすると良いでしょう。
⑤ 耳から聞く「聞き言葉」の意味が伝わりにくい子どもでは、絵や文字で指示すると良いでしょ
う。
⑥ 周囲の状況がよく分かっていないために、注意された内容が理解できないことがあります。本
人がどこまで理解しているか確認しながら、丁寧に状況の説明をすれば分かることも多いもの
です。
⑦ 怒鳴り声や甲高い声、抑揚のある話し方、ちょっと変わったイントネーションをしていたりす
ると、言葉の「音」にとらわれて内容が頭に入っていかないことがあります。
⑧ 自分独自のルールを持っている子どもでは、周囲の状況に合わせて行動を変えられないことが
あります。はじめから無理やり変えようとせずに、周囲の人たちの方が合わせるようにしなが
ら、徐々にいろいろな場面に対応できるようにするための専門的なトレーニングする必要があ
ります。
⑨ 自分とかかわりのある人や信頼関係のある人の指示ならば聞けることでも、他の人から突然注
意されると、聞かないことがあります。場合によっては、「担任の先生以外の大人も、先生と
同じように指示することがある。」と教えておくとよいでしょう。

【Q11】 人をたたくことがあります。どうしたらよいでしょうか?
① 他人を攻撃する意図のない、反射的な行動であることがほとんどです。 視覚的な刺激(本人に
とって不快なものが見えたなど)や触覚的な刺激(本人にとって不快な方法で触られた、または、
人が急に近づいてきたなど)への過敏があるために、とっさに反応して、結果として人をたた
いてしまうことがあります。
② パニックや癇癪を起こしやすい子どもでは、その際に他害行為をしてしまうことがあります。
③ 人に関心を持ち始める時期には、適切なかかわり方ができないための行動であることがありま
す。トラブルになりやすい特定の子どもがいる場合には、その子どもが視野に入ったとたんに
反射的に叩いてしまうこともあります。また、遊んでいる内に、興奮して行動がエスカレート
してしまうこともあります。
④ 周囲の人々の方が恐くなってしまうかもしれませんが、本人自身が混乱していることの現われ
です。本人の負担をなるべく少なくするように環境を調整することで、問題となる行動を減ら
していくことができます。
⑤ 自分のやった行動に対して謝罪することも、必要なソーシャルスキルの一つです。しかし、単
に「ごめんなさい」を言わせることを目的にするのではなく、原因を究明してそれなりの処置
をする必要があります。

【Q12】 だらしないので厳しく指導したいのですが…。
① 「はじめ」と「おわり」がよくわからないために、けじめがついていないように見えることが
あります。「今から何が起き」「自分は何をすればいいのか」予め告げておくとともに、その場
では「はじめ」と「おわり」の合図をしっかりと出すようにすると良いでしょう。
② 空間的な配置や物事の順序がよく分からないために、整理整頓ができず乱雑に見える子どもも
います。物の形を分けて置き場所を決めておいたり、準備から片づけまでの手順を紙に書いて
示したりする必要があることがあります。(逆に、いつもきちんとしていて、ちょっとでも動
かしたり変えたりすると怒る子どももいます。)
③ いつも服の端を握っていたり、だらしない服の着方をしていることがあります。多くは、感覚
(触覚)的なものですので、やみくもに叱らないようにしてください。かといって、全く注意し
てはいけないということはありません、「服がはみ出していることを教えてあげる」ようにす
るとよいでしょう。
④ 自閉症の特性を無視して厳しくしても、ほとんど意味がありません。無理やり抑えつけると、
問題行動をひどくしてしまうことがあります。
⑤ これらの様子から、他の子どもからいじめられることがあります。いじめを受けると、強い心
的外傷になりますので、他の子どもへの監督と指導が必要です。

【Q13】 おかしなことをすることがあるのですが…。
① アスペルガー症候群の子どもにも自閉症と同様のこだわり行動があり、奇妙に見えることがあ
ります。
② こだわり行動にもいろいろあり、本人の精神的な安定のために必要な行動であるものもありま
す。
③ しかし、社会的に不適切なものに関しては、社会的に妥当な行動(他人に迷惑をかけない・他
人を巻き込まない・TPOをわきまえた行動)に置き換えていく必要があります。
④ これらの様子から、他の子どもからいじめられることがあります。いじめを受けると、強い心
的外傷になりますので、他の子どもへの指導と監督が必要です。

【Q14】 運動ができないのは、努力をさせなかったからでしょうか?
① 運動ができないのは、発達性協調運動障害という障害がある場合です。
② 発達性協調運動障害は、アスペルガー症候群に合併することの多い障害です。
③ 通常なら励ましになるはずの「がんばれ」という声援が、負担になってしまうことがあります。
④ 本人の努力だけでは、どうしようもないものです。課題のレベルを下げるとともに、発達段階
に合わせた指導をする必要があります。

【Q15】 親が過保護で、甘やかしすぎているのではないでしょうか?
① 発達の遅れがあって庇護的にならざるを得ないという特殊事情があるために、発達障害児にか
かわったことのない他の父兄から、過保護・過干渉と見られてしまうことがあります。
② 他人とどのようにかかわったら良いか分からず、不安を感じることの多い自閉症児は、自分を
守ってくれる人に依存してしまう傾向を持っていることもあります。
③ アスペルガー症候群の子どもは特に、言葉の遅れがなく、物知りで賢そうに見えるため、障害
があることに気付かれないことが多いものです。他の子どもと違った行動や問題となる行動が
あると、単なるわがままやしつけ不足と思われているかもしれません。
④ 周囲の状況が分からない中でどのように振る舞って良いか分からないという本人の強い不安
を受け留めながら、自発性を育てる必要があります。

【Q16】 親が厳しすぎるのではないでしょうか?
① 発達障害のある子どもには、特有の育てにくさがあります。しかしそれが発達障害によるもの
だと気づかず、保護者が厳しく接してしまうことがあります。
② 発達障害であることには気づかないものの、たいていの保護者は我が子の抱えている困難に気
づいているものです。そのために、良かれと思って厳しく接してしまっていることもあります。
また、保護者の育て方に原因があるのではないかと思い悩んで、厳しくしてしまうこともあり
ます。
③ 発達障害の診断を受けたものの受容できずにいる段階の保護者は、かえって子どもの遅れが目
についてしまい、何とかして直そうと厳しく接してしまうことがあります。
④ 専門機関や支援団体に所属して、適切な治療教育(療育)を受けてトレーニングを行っている場
合でも、その方法が一般に知られていないために、子どもに厳しくしすぎていると言われてし
まうことがあります。
⑤ 保護者が子どもに厳しく接してしまう理由の一つに、「ちょっと変わった子を、安心して学校
や社会に送り出せない不安」と「行動の問題は、家庭環境としつけに原因があると考える社会
の認識」があります。この悪循環を断ち切らない限り、問題は解決できないと考えます。

【Q17】 問題行動がなくなって、だいぶ落ち着いてきました。治ったのでしょうか?
① 生まれつきのものなので、治るということはありません。
② 本人と周囲の人たちの双方が協力することで、障害と上手に付き合っていくことができます。
③ 発達障害を持っていても、その状態は対応や環境によって大きく左右されます。
④ 見かけ上の問題がなくなると放置されがちになりますが、本当は継続した支援が必要です。
(後になって、他の様々な病気となって現われたり、適応障害を起こすことがあります。)
⑤ 教育的な対応をするだけでなく、医学的診断が必要なところです。

支援プラン作成上の留意点
高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもは、一見普通に見えますが、特別な支援を必要としてい
ます。 「かかわり・コミュニケーション・こだわりの三領域の困難」(表1)という一次的な障害に加え
て、社会的な理解が得られていないことによる精神的・心理的な負担から、二次的な障害に発展しやす
いものです。対人関係に支障をきたしやすい自閉症児への支援プランを作成するに当たっては、以下の
ような観点が不可欠です。
① 信頼関係を形成すること。
この人なら分かってくれる・この人なら安心できる、という人の指示を受け入れ易い傾向があります。
特に、聴覚の過敏性があるケースでは、穏やかで低いトーンで指示すると、聞き入れやすいことが多い
ようです。相手と同じ視点に立つことは、コミュニケーションを成立させるための鉄則です。
② 「本人自身の困難を少しでも減らす」という視点に立って、指導に当たること。
問題行動が増える時には、本人が何らかの困難に直面していることを意味しています。単に行動を改
善することを目標にするのではなく、問題行動は「周囲の状況と本人の発達段階が合っていない」こと
を現わしており、問題行動が起きることで「お互いにとって良くない結果を生んでいる」という悪循環
を断ち切る必要があります。
③ 本人のニーズに応える形で、支援すること。
認知・感覚・身体運動面の障害が大きくて、クラスメイトと同じように行動できないことに悩んでい
る場合と、人に関心が薄く自分なりの考え方を持っている場合とでは、本人のニーズが異なります。そ
れによって、介入方法を変える必要があります。
④ 通常とは違う感じ方や考え方を持っていることを尊重すること。
社会的にふさわしくない行動を減らし、社会的不利をなくすための努力は必要ですが、感じ方・考え
方の違いは尊重されるべきです。これを頭ごなしに否定してしまうと、孤立してしまったり、自信をな
くしてしまうことがあるからです。
⑤ 本人の心情に配慮すること。
本人自身が困っていることを自覚している分野では積極的に指導できるものですが、本人の抵抗や精
神的な負担が大きい分野では、無理強いすると人とのかかわりを拒絶するようになってしまうこととが
あります。また、不安を感じやすいことに配慮して、「できていないこと」を強調せずに「できること」
を増やし、本人が有能感を実感できるように努めることが大切です。