自殺予防 高橋祥友

自殺予防 高橋祥友著(新赤版1028)岩波

   長期的に粘り強い取り組みを―― 一人でも多くの命を守るために、家族が、職場が、社会ができることは何か

 日本では、1998年以降8年連続して年間自殺者数が3万人を超えるという、深刻な事態が続いています。また、自殺未遂者数は自殺者の10倍以上、さらに強い絆のある人の自殺や自殺未遂によって深く傷つく人の数は、百数十万人にものぼると推定されており、深刻な社会問題となっています。

 これまで日本社会では、自殺に対して「覚悟の行為である」「予防などできない」「遺族はそっとしておくのが一番」といった考えが根強かったため、自殺予防に対して十分な関心が払われてきませんでした。しかし、自殺者の急増という事実、一連の過労自殺裁判に対する司法判断、あしなが育英会などの活動によって自殺遺族の抱える問題が明らかになってきたこと、などを背景に、ようやく行政も具体的な自殺予防対策に動きはじめ、今年の通常国会では、その一歩となる「自殺対策基本法」が成立しました。

 この本では、精神科医として長年、自殺予防の臨床と研究に従事してきた著者が、現在の日本の自殺の実態、自殺を考えるほどに追いつめられる心理、多くの自殺の背景にあると言われる〈こころの病〉、とくに「うつ病」との関係、さらには不幸にして自殺が起きてしまったときの遺族に対するケアなどについて、事例も交えてわかりやすく解説しています。

 個人で、家族で、職場で、地域で、そして社会で。地道に粘り強く取り組みを続けることによってしか、自殺を防ぐことはできません。いったい何ができるのか、何が求められているのかを知るために、本書を一人でも多くの方にお読みいただきたいと願っています。

(新書編集部 太田順子)
    
  ■目次
はじめに
  
  第1章 自殺という死   
1 青木ヶ原樹海からの生還者――自殺と記憶喪失
2 自殺は「強制された死」である
3 日本における自殺の実態
4 世界との比較から
5 年齢によって異なる危機
6 マスメディアの影響――群発自殺とネット心中  
    
  第2章 自殺の心理   
1 自殺の危険をどうとらえるか
2 自殺する人と自殺しない人の違いは
3 「自殺したい」と打ち明けられたら
4 どのようにして受診につなげるか
5 自殺の心理に関連していること 
    
  第3章 こころの病と自殺   
1 治療を受けずに自殺する人びと
2 自殺予防とうつ病治療の関係
3 うつ病とは
4 うつ病の治療 
    
  第4章 自殺予防の取り組み   
1 国連による自殺予防ガイドライン
2 フィンランドの実践
3 新潟県東頸城郡の自殺予防活動 
    
  第5章 家族を支える、遺族をケアする   
1 家族が抱える問題と自殺行動
2 自殺予防に不可欠な家族の協力
3 自殺が起きたときの遺族へのケア
4 芽生え始めた自助グループ
5 ポストベンションは次の世代のプリベンション 

  あとがき

 ■岩波新書にはこんな本もあります   
過労自殺 川人 博著 新赤版553
働きすぎの時代 森岡孝二著 新赤版963
ルポ 解雇―この国でいま起きていること 島本慈子著 新赤版859
〈こころ〉の定点観測 なだいなだ編著 新赤版718
人間回復の経済学 神野直彦著 新赤版782
 
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例えば、職場に産業カウンセラー、学校に学校カウンセラーをたくさん配置したとして、
どうなるか。
そのことが結局のところ登校刺激になったりする。

一度経済的に躓くと、
雪だるま式に借金が増え、友人もいなくなるという現実もある。
ローンは抱え、教育費はかさみ、そのような現実にたいしては、
会社なりの緊急融資制度が必要なのだと思う。

休職すれば、ボーナスが減らされ、
ボーナス払いでローンを組んでいる人たちは、
お金の工面に走ることになる。

心理的なサポートと、
現実的なサポートとの、両方が必要である。