がん緩和ケア最前線

 がん緩和ケア最前線 坂井かをり著 (新赤版1067)
    
   患者・家族に納得のいく医療の姿とは

 「がん緩和ケア」という言葉から、あなたは何を思い浮かべますか? 終末期医療とか、ホスピス、あるいは目の前に訪れる死……といったものではないでしょうか。
 私の場合、この本を企画・担当することになるまでは、およそそんなところでした。そして、実はこの本の著者自身もまた、実際に取材に入るまでは、同様だったそうです。ところが、これは全くの誤解だというのですから、驚きです。
 著者は大学で薬学を専攻し、NHKで数々の医療番組を企画・制作してきたプロデューサー。そんなキャリアのジャーナリストさえ知らなかった「緩和ケア」とは、では一体、何なのか。

 実は、20年ほど前、WHO(世界保健機関)が定めた定義では、「早期」からがん治療と並行して行われるべき、さまざまな苦痛の除去を意味しているのだそうです。治療断念後の「末期」に、せめて痛みの除去を、というものではないのです。
 けれども、そこが根本的に誤解されてきた日本では、病院でも真の「緩和ケア」がまだまだゆきわたらず、患者やその家族を苦しませ、悩ませているのが実情です。

 そんな中で、2005年3月、東京・江東区に生まれた癌研有明病院は、まさにWHOの考え方に徹した最先端の病院です。全国から注目され、視察に訪れる人が後を絶ちません。
 では、そこで実際にどのような医療が行なわれ、患者や家族はどんな感想をもつに至っているのか。それをじっくり取材し、報告するのが本書です。満足度の高いがん医療の新しい形が、くっきりと浮かび上がってくること請け合いです。

 早期からの緩和ケア――。その推進を厚生労働省もようやく決め、「がん対策基本法」にも、その考え方が盛り込まれています。
 2人に1人が、がんになるという時代。医療をめぐる新しい動きにも、しっかり目を配っていく必要がありそうですね。

(新書編集部 坂巻克巳)
  
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「さまざまな苦痛の除去」にあたっては、
精神科関係の薬や、心理療法も大切になる。
抗不安薬、抗うつ剤、抗精神病薬など、有用な薬が多い。
QOL(生活の質)を改善するためにも、役に立つ。
取りあえずぐっすり眠るだけでもずいぶん違う。
寝るのだから睡眠薬でいいのだろうと思うと、そうでもなくて、いろいろな技術がある。

昼の本人の活動にあわせて、薬剤を調整し、QOLを維持する。
そんな時代になっている。
わたしたちはその点では積極調整派だ。
時間が限られているなら、なおさら、合理的に対処して、
生かされている時間を味わいたいと思う。

ベッドの上で写真集を見ているだけではなくて、
新宿御苑に車椅子で連れて行ってあげたいと思う。