うつ病患者復職準備度尺度

復職デイケアに取り組んでいる三重大学グループの「うつ病患者復職準備度尺度」Restoration Readiness Inventory in Depression(R2ID)] v.2.0を紹介します。まだ開発中です。

岡崎祐士、西田淳志、伊藤雅之:うつ病で病休・休職中の患者の「復職可能」診断をめ ぐって-うつ病患者復職準備度尺度試案-臨床精神医学 35(8):1059-1067, 2006

[評価領域・分野・事項]
評価領域はI、II・・・、分野は1,2・・・、事項は①、②・・・で示す)
IとIIはその領域の該当項目数で、IIIからVIIは評価段階(重症度)によって、復職準備度を表す。大きい項目数または高い評価段階ほどよいことになる。異なる評価領域、評価分野、評価項目が同じ重みであるとはいえないので、将来は総合判断する際の重み付けの検討・設定が必要になる。


I.現在の全般健康状態・・・・・該当項目に○
 1.雰囲気が明るい、存在感がある
 2.顔色・肌つやがよい、表情に張り
 3.語尾明瞭で、声に張り
 4.動きに切れ、体に充実感
 5.寝起きがよい
 6.おいしく食べる
 7.満腹するとすこし眠気、居眠り
 8.微熱・風邪気味は2週間以上ない
 9.お腹が安定(下痢・軟便は2週間以上ない)
 10.口や喉はカラカラにならない
 11.自然に外出、次の予定がある


Ⅱ.睡眠とリズム・・・・・・該当項目に○
 1.入眠に苦労しない、またはいつの間にか入眠する
 2.途中覚醒1回以下、目覚めてもまもなく眠れる
 3.悪夢、多夢、寝汗の眠りがない
 4.自然な起床時間で、寝起きがよい
 5.ぐっすり眠った感じがあり、日内変動(午前型/午後型)も
   目立たない


Ⅲ.疲れやすさ(ストレス反応性とストレス耐性)・・・・・凡そ該当する評価段階に○


 1.日常作業による過敏・疲労反応


 ①見る/読む作業
  0.新聞・雑誌は見たくもない
  1.新聞・雑誌は目次を見るだけ
  2.長い記事もよむ、少なくとも1つの記事を最後まで読む
  3.新聞・雑誌を全体にわたって目を通す
  4.新聞記事を通して読める、文庫本を数日で1冊読み上げる
  5.単行本を複数冊つづけて読み上げる


 ②キーボード・書く作業
  0.ペン・鉛筆、キーボードに触りたくない
  1.転記、キーボードで文書見ながら入力できる
  2.短い文章が作れる
  3.与えられたテーマの作文、返事や便りが書ける


 ③.テレビ
  0.音がうるさく感じテレビの前に行かない・スイッチを切る
  1.ついているテレビは何となく見る
  2.ニュース・バライエティーは見る
  3.ドラマや座談会を筋を追って見る
  4.好きな番組を見るようになった


 ④.趣味
  0.何もしたくない、面白いことは何もない
  1.趣味のことを考える
  2.趣味を少しやってみる
  3.趣味をやるために用をする(外出、買い物)
  4.趣味のため知人等に連絡したり会ったりする


 ⑤.家事
  0.横になっていることがほとんど
  1.自室の片づけ、掃除機
  2.家の掃除・食器の片づけを手伝う(主婦/夫を兼務の場合、
    食事の片づけ程度)
  3.浴室の掃除をする(主婦/夫を兼務の場合、
    出来合を買うなど簡単な食事ならできる)
  4.買い物のお使いをする(主婦/夫を兼務の場合、
    朝食の準備ができる)
  5.家族と買い物に一緒に出かける(主婦/夫兼務の場合、
    夕食の献立、買い物、料理が自然にできる)


 ⑥.運動
  0.食事やトイレ以外ほとんど横になっている
  1.昼間起きている時間が多い、入浴はおっくう
  2.入浴はほぼ毎日、外出もできる
  3.昼間の外出可能、屋内で軽い運動
  4.運動のための散歩、プール・ジムに行く、趣味の運動


2.一般対人ストレスによる過敏・疲労反応


 ①外出
  0.外出できない
  1.夕方・夜間・休日(近くのコンビニ等)可能
  2.昼間(勤務時間)外出可能
  3.次に人と会う予定がある


 ②近隣とのつきあい
  0.近隣と会うのを避ける
  1.隣人とのあいさつ可能
  2.近隣との立ち話程度可能
  3.近隣の会合参加可能


 ③子どもの相手
  0.子どもがうるさい
  1.一緒にいられる
  2. 屋内で短時間なら相手できる
  3. 比較的長時間相手できる・外で遊べる


 ④.職場外での対人関係
  0.電話にでることができない(ベルにびくっとする)
  1.電話では他人、会社以外の友人、親戚との会話可能
  2.職場外友人の来訪、自身の親戚来訪への応対可能
  3.姻戚の来訪への応対可能
  4.職場外友人と外で会う・会食可能
  5.姻戚宅への配偶者と一緒の訪問可能


3.職場関連ストレスによる過敏・疲労反応


 ①職場情報
  0.職場に関することは話もできない。すべてに過敏・疲労反応
  1.家族となら会社事項も話せる
  2.職場からの郵便・文書を処理できる
  3.休日・夜間なら職場近くへ行ける


 ②職場関連対人関係
  0.職場からの電話にもでることができない、
    でたら強い過敏・疲労反応
  1.職場からの電話にでるが、過敏・疲労反応が軽度生じる
  2.職場からの電話(同僚、上司、人事)対応可能
  3.職場関係者訪問対応可能
  4.職場への訪問可能(過敏・疲労反応は、緊張亢進、入眠悪化、
    途中覚醒、悪夢や多夢、起床悪化で判断)


Ⅳ.自殺危険性・・・・・・凡そ該当する評価段階に○


 0.自殺企図の既往がある。
   死について具体的に考えることがある
 1.自殺企図の既往はない。
   普段は考えないが頭の隅には死に関する考えが残存している
 2.自殺企図の既往はない。
   自殺を考えたことを思い出すこともあるが、
   家族や周囲への迷惑となるし、死が解決の手段とは思わない
 3.自殺企図の既往はない。
   死によって何も解決しない、今後その様な考えが生じたら
   すぐに相談するようにしたい


Ⅴ.復職可能診断のいきさつ・・・・凡そ該当する評価段階に○


 1.今回の「復職可能」診断のきっかけは、
  1.患者の希望によるもの
  2.家族の希望が働いたもの
  3.医師の判断による
  4.患者の希望と医師の判断の一致によるもの


 2.患者の希望による場合、医師は、
  0.医師はまだ早いと感じている
  1.復職への本人の焦り(喪失を取り返したい、収入確保など)がある
  2.職場の復職期待・意向による無理がある
  3.家族の希望・意志が働いた無理


 3.患者の復職希望の適切性
  0.早すぎる、病状再燃の可能性がある
  1.やや早すぎる、準備期間が必要
  2.復職訓練(職場または職場外)を試みてもよい
  3.軽減勤務なら可能
  4.今からでも復職は可能


 4.家族の復職をめぐるサポートの適切性
  0.無理な・患者の負担になる要求がある
  1.後押ししすぎ
  2.サポート不足
  3.適切なサポートがある


 5.復職を巡る職場の対応の適切性
  0.治療や回復に却って妨げになる対応がある
  1.積極的対応がない
  2.対応の柔軟化や改善が望まれる
  3.適切な対応がある(健康管理システム、相談体制)


Ⅵ.病気の理解と自己管理・・・・・・凡そ該当する評価段階に○


1.うつ病に関する理解


 ①症状や病気
  0.理解がない
  1.いろいろの困難を症状として理解
  2.薬物療法などの治療の必要性の説明を理解している
  3.自ら本などでも学んだ
  4.集団の演習(SST/デイケア)でも学んだ


 ②成因
  0.ストレスの関与への理解がない
  1.今回のエピソードの前のストレス、生活上の無理の自覚
  2.性格的な側面の関与の自覚
  3.再発注意のための具体的な対策を考えている

2.自己管理


 ①ストレスを避ける方法
  0.何も学んでいない
  1.言葉に出してはいえる
  2.本などで学んでいる
  3.デイケア場面などで観察されている


 ②服薬の必要性自覚と実際の服薬状況
  0.飲み忘れや中断あり
  1.主治医や家族に言われると服用する
  2.飲み忘れは月に数回以下、本などで学んだ
  3.必要性を自覚しほぼ忘れることなく服薬


 ③定期受診・相談ができる
  0.自らは受診しない
  1.家族に促されると受診する
  2.自ら受診するが、肝腎な相談はしない
    (家族が主治医に伝える)
  3.自ら定期受診、必要に応じて臨時にも受診し相談する


 ④相談しサポートを得られる
  0.医師以外に相談する人がいない
  1.家族には何でも話せる
  2.相談できる友人もいる
  3.職場にも相談できる同僚・上司、健康管理担当者がいる