認知療法で自殺の反復を50%予防できる

認知療法で自殺の反復を50%予防できる-米国の研究結果から

 自殺増加に悩む日本にとっても注目すべき研究成果が発表された。米Pennsylvania大学のGregory K. Brown氏らは、自殺企図者(=自殺未遂者)に対し、通常のケアに加えて、10セッションの認知療法を実施した場合の、反復性自殺企図の予防効果を調べた。その結果、認知療法がうつを軽減し、自殺企図の繰り返しを50%予防できることが明らかになった。詳細は、Journal of American Medical Association(JAMA)誌2005年8月6日号に報告された。

 自殺は、2002年の米国における18~65歳の死因の第4位を占めた。米公衆衛生局が作成した「自殺予防のための国家戦略」は、自殺リスクが高い人を特定して治療を行うことを推奨している。

 自殺の強力なリスク因子の一つが、自殺企図だ。追跡死亡率のメタ分析の結果は、自殺企図者の自殺既遂率は、自殺企図歴のない人の38~40倍にも及ぶことを示唆している。前向き研究でも、自殺企図の、リスク因子としての確実性を示している。

 しかし、自殺企図の反復を予防する治療に関するエビデンスは少ない。これまでに、強力な追跡または症例管理、対人関係療法、認知療法などが評価され、認知療法または問題解決法の効果が示唆されたが、無作為割付比較対照試験(RCT)の必要性は高かった。

 今回の試験では、自殺を試み、病院の救急部門で48時間以内に医学的、精神医学的評価を受けた成人120人が対象。平均年齢は35歳で61%が女性。全員にケース・マネージャーによる通常のケアを実施。半数には認知療法を追加した。

 認知療法は、毎週または1週おきに行った。自殺企図に至る考え方や概念を認知し、それらに対処する方法を学ぶ。また、ストレスをもたらす刺激に対抗する方法を会得、絶望感、困難、孤独と戦う方法を知る。最終段階で、自殺企図の際の感情やイメージを呼び起こし、それらに適切に対応する能力を獲得しているかどうかを評価する。

 ベースライン時に77%が大うつ病、68%が薬物依存(30%がアルコール、23%がコカイン、17%がヘロイン)で、85%の患者が1つ以上の精神疾患の診断を受けていた。58%が薬物過剰摂取、17%は貫通性外傷、7%は飛び降りなどの方法で自殺を図っていた。

 追跡期間のうつの程度は、医師によるHamiltonスケールと自己申告式のBeck抑うつ尺度IIを用いて評価。絶望感はBeck絶望尺度で、自殺念慮は自殺念慮尺度で評価した。リスクが大きいと判断された患者は、外来での治療でなく、専門の救急部門に搬送、入院ベースで試験を継続した。追跡期間中の脱落者の数に有意な差はなかった。

 ベースラインから18カ月目まで評価。認知療法群の13人(24.1%)と通常ケア群の23人(41.6%)がその間に1回以上自殺を試みた。Kaplan Meier法を用いて、6カ月間自殺企図なしでいる確率を推算すると、認知療法群で0.86(95%信頼区間0.74-0.93)、通常ケア群で0.68(0.54-0.79)。18カ月間では、0.76(0.62-0.85)と0.58(0.44-0.70)と、認知療法群の自殺企図率は有意に低く、ハザード比0.51(0.26-0.997)となった。自己申告によるうつの程度は、認知療法群で有意に低かった(6カ月時のP=0.02、12カ月時のP=0.009、18カ月時のP=0.046)。認知療法群の絶望感は、6カ月の時点で有意に少なかった(P=0.045)。自殺念慮については、評価されたすべての時期で有意差は認められなかった。

 得られた結果は、比較的短いセッションの認知療法によって、自殺企図の反復をほぼ半減できることを示した。うつの軽減は自殺企図抑制をもたらす可能性がある。著者たちは、今回の知見を基に、地域の精神保健センターなどで自殺企図者に短期的な治療を行う方法が、自殺予防に有効と期待している。

 本論文の原題は「Cognitive Therapy for the Prevention of Suicide Atgtempts」

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まず薬剤でいったん落ち着いていただいて、
その後で、認知療法を行う。

認知療法は、毎週1回。
自殺企図に至る考え方や概念を認知し、
それらに対処する方法を学ぶ。
ストレスにさらされたとき、どうして打つになり、死にたくなるのか、
認知の癖をつかむ。
ストレスをもたらす刺激に対抗する方法を会得、
絶望感、困難、孤独と戦う方法を知る。