ICD-10 うつ病エピソードの基準

精神障害および行動障害に関する ICD-10 分類

うつ病エピソードの基準

出典:The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders
World Health Organization, Geneva, 1992

 F32うつ病エピソード
 F32.0 軽度のうつ病エピソード
 F32.00  身体性の症状を伴わないもの
 F32.01  身体性の症状を伴うもの
 F32.1 中程度のうつ病エピソード
 F32.10  身体性の症状を伴わないもの
 F32.11  身体性の症状を伴うもの
 F32.2 精神病症状を伴わない大うつ病エピソード
 F32.3 精神病症状を伴う大うつ病エピソード

F32 うつ病エピソード

以下に記載されている 3 種類の典型的なうつ病エピソード (軽度、中程度、重度) において、患者は通常、抑うつ感、関心や喜びの喪失、体力の低下などのため、疲労や行動力の低下に悩まされ、わずかな努力の後にも、疲労感を感じます。以下は、その他の一般的な症状です。

 (a) 集中力と注意力の低下
 (b) 自信の喪失
 (c) 罪責感と無価値感 (軽度のうつ病エピソードにも確認される症状)
 (d) 将来に対する不安や悲観的な考え
 (e) 自虐的や自殺的な考えや行動
 (f) 睡眠障害
 (g) 食欲不振

気分的な落込みは、日による変化があまり認められず、環境からの影響もあまりありませんが、日数の経過にしたがい、日中に特有の変化が現れる場合があります。躁病エピソードと同様に、症状には明確な個人差があり、思春期には一般的でない症状が認められることも多くあります。また、うつ症状と比較して、不安、苦悩、動揺などが顕著に表れる場合も多く、いらいら、過度の飲酒、演技的行動、既存の恐怖症や強迫観念の増大、心気症などによって気分的な変化が潜在化してしまうケースもあります。上記 3 つのすべての程度のうつ病エピソードの診断には、2 週間の症状継続期間を必要としますが、重度の症状や急激な発症が認められる場合は、それ以下の短い期間を診断の対象とすることも可能です。

上記の症状の一部では、その症状が顕著に表れる場合や特殊な臨床的特徴が認められる場合などがあります。これらの「身体性」症状の最も典型的な例には、以下のような症状があります。普段楽しいと感じる行動における関心や喜びの欠如。普段楽しいと感じる状況やイベントにおける感情的反応の欠如。通常より 2 時間早い起床。午前中のうつ症状の悪化。客観的に認識可能な精神運動の低下や動揺 (第三者による認識)。著しい食欲不振。体重の減少 (通常は 1 か月間に 5% の減少)。著しい性欲の減退。この身体性症候群は通常、以上の症状のうち 4 項目が明確に認められる場合に「症状」として診断されます。

うつ病エピソードに対する軽度、中程度、重度の分類 (詳細は以下を参照) は、1 つの (最初の) うつ病エピソードのみに対して適用します。その他のうつ病エピソードは、反復性うつ病性障害の一部として分類します。

これら症状の程度は、さまざまな精神医学的診断において考えられる状況に、幅広く対応するように設定されています。プライマリーケアや一般診療では、軽度のうつ病エピソードを患う患者が多い反面、大うつ病を患う患者は、精神科入院施設で診療を受けます。

感情障害に関連する自虐的な行為には、最も一般的なものとして、処方された薬剤の過剰な服用によるものがありますが、ICD-10 の該当する章に記載された追加コードを使用して記録する必要があります。自殺計画と「偽装自殺」は、自虐行為の一般的なカテゴリに含まれるため、これらのコードは、この二者を区別するものではありません。

うつ病エピソードの軽度、中程度、重度の区別は、数値、タイプ、症状の程度など、複雑な臨床診断に基づいたものとなります。日常の社会的や職業的な活動は、エピソードの程度を判断する有力な手がかりとなりますが、症状の程度と社会活動との関連付けを困難にする個人的、社会的、文化的な影響の存在を考慮した場合、社会活動を、判定の主な基準にするのは適切ではありません。

痴呆や精神遅滞が認められる場合も、治療可能なうつ病エピソードの診断を除外しませんが、コミュニケーションが困難な場合は、一般的な診断以上に、客観的な観測が可能な身体性症状 (精神運動の低下、食欲不振、体重減少、睡眠障害など) が重要となります。

 以下を含む
* 単一のうつ病エピソード (精神病の症状を伴わない)、心因性うつ病、反応性うつ病

F32.0 軽度のうつ病エピソード

診断ガイドライン:抑うつ気分、関心や喜びの欠如、疲労感の増加は、一般的なうつの症状と認識されますが、これらのうちの 2 つ以上の症状に加え、上記のうちの 2 つ以上の別の症状が認められてはじめて診断が確定されます。この症状は、いずれも程度の重いものでないことが条件となり、エピソード全体の最短継続時間は、約 2 週間となります。

  軽度のうつ病エピソードを患う患者は、症状に悩まされ、日常業務や社会活動の継続に多少の困難を感じますが、完全に機能できなくなるということはありません。

  5 番目の数字は、身体性症状の有無を表します。

F32.00 身体性の症状を伴わないもの

軽度うつ病エピソードの診断基準を満たし、身体性症状が 2、3 のみ、またはまったく認められない。

F32.01 身体性の症状を伴うもの

軽度うつ病エピソードの診断基準を満たし、4 つ以上の身体性症状が認められる (身体性症状が 2、3 のみ認められる場合でも、その症状の程度が非常に重い場合はこのカテゴリに含まれる)。

F32.1 中程度のうつ病エピソード

診断ガイドライン:軽度うつ病エピソードの最も一般的な 3 つの症状のうち、2 つ以上が認められ、さらに別の症状が 3 つ以上 (4 つの症状がある場合は確実) 認められる場合。全体的に各種の症状が見られる場合は、程度の重い症状がいくつか認められた場合も、重要な基準とはなりません。エピソード全体の最短継続時間は、約 2 週間となります。

中程度のうつ病エピソードを患う患者は通常、社会、職場、家庭での活動がかなり困難となります。

5 番目の数字は、身体性症状の有無を表します。

F32.10 身体性の症状を伴わないもの

中程度うつ病エピソードの診断基準を満たし、2、3 の身体性症状が認められる。

F32.11 身体性の症状を伴うもの

中程度うつ病エピソードの診断基準を満たし、4 つ以上の身体性症状が認められる (身体性症状が 2、3 のみ認められる場合でも、その症状の程度が非常に重い場合はこのカテゴリに含まれる)。

F32.2 精神病症状を伴わない大うつ病エピソード

大うつ病エピソードを患う患者には、顕著な精神遅滞がない限り、重度の苦悩や動揺が認められます。自信の喪失、および無価値感や罪責感を抱き、重症の場合は、自殺の危険性も非常に高くなります。大うつ病エピソードでは、身体性症状がほぼ確実に認められます。

診断ガイドライン:軽度/中程度のうつ病エピソードの一般的な 3 つの症状すべてに加え、4 つの別の症状 (重度のものを含む) が認められます。しかし、動揺や精神遅滞などの重要な症状が顕著な患者は、多くの症状の詳細を説明しようとしない場合や、できない場合があります。このような場合は、総体的に重度のエピソードと診断することが適切と思われます。エピソードは、通常 2 週間以上継続しますが、症状が極めて顕著な場合や急激に発症した場合は、2 週間未満でも確診とすることができます。

 大うつ病エピソード期間中、患者は、社会、職場、家庭での活動を継続することは、ごく一部を除いてほぼ不可能となります。

  このカテゴリは、身体性症状を伴わない単一の大うつ病エピソードに対してのみ適用されます。それ以降のエピソードには、反復性うつ病性障害のサブカテゴリが適用されます。

 以下を含む
* 動揺を伴う単一のうつ病エピソード
* 精神病症状を伴わないメランコリーまたは顕著なうつ病

F32.3 精神病症状を伴う大うつ病エピソード

診断ガイドライン:精神病症状を伴わない大うつ病エピソードの診断基準を満たし、妄想、幻覚、うつ病性昏迷を伴う大うつ病エピソード。妄想には通常、罪悪感、貧困、切迫感、自責の念などが含まれます。また幻聴や幻嗅には通常、中傷や非難の声、および汚物や肉の腐敗臭などがあります。重度の精神病症状は、昏迷にまで進行することがあります。必要に応じて、妄想や幻覚と感情との関連を特定することもできます。

鑑別診断:うつ病性昏迷は、緊張型分裂症、解離性昏迷、脳器質性昏迷などと区別する必要があります。このカテゴリは、精神病症状を伴う単一の大うつ病エピソードにのみ適用されます。それ以降のエピソードには、反復性うつ病性障害のサブカテゴリが適用されます。

以下を含む
* 精神病症状を含む単一の大うつ病、精神病性うつ病、心因性抑うつ精神病、反応性抑うつ精神病