シャイネスと不適応

日本においてもシャイネスは集団内不適応の原因になるとのこと。
わたしはテレビで笑ったり泣いたりしている人がどうにかしているのかと思っていた。
そうではないらしい。

でも、大丈夫。
人生は、思ったよりも、あっという間に終わりますから。

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シャイネスが学級内での児童、生徒の適応に及ぼす影響
~学級集団内における不適応を生むのは不安か消極性か~ 2002.9.27日本心理学会
○菅原健介 ・ 眞栄城和美 ・ 菅原ますみ ・ 天羽幸子 ・ 詫摩武俊
(聖心女子大学)(白百合女子大学)(お茶の水女子大学)(青山教育研究所)(東京国際大学)
Key Words : シャイネス、対人不安、学級集団
<目的>
シャイネス傾向が個人の社会的適応に望ましくない影響を与えていることは欧米の多くの研究によって指摘されている。しかし、自己主張の少ない日本文化においてシャイネスはむしろ『慎み深さ』や『恥じらい』といったニュアンスとして受け取られ、否定的な影響は少ないとする見方もある。そこで、本研究の第1の目的は、まず小学校高学年と中学生を対象として、シャイネスが学級集団への適応にどのような影響を及ぼしているのかを検討することである。
また、シャイネスには「対人場面における不安感」と「対人行動の消極性」という2つの要素が含まれるが、これらは別個の特性次元として抽出でき、かつ、他の個人特性との関連性も大きく異なることが示されている(菅原、1998)。また、小中校生の双生児を対象とした行動遺伝学的研究では、不安傾向に比べ消極傾向は遺伝的規定性が高く、両傾向の違いが明確化されている(菅原ら、2000)。シャイネスの社会適応への望影響はどちらの要因によって引き起こされるのだろうか?本研究の第2の目的は、対人不安傾向、および対人消極傾向が学級集団への適応に与える影響を比較検討することである。
<方法>
本研究は双生児を対象とした人格発達の縦断研究(菅原ら、2000)のデータの一部を用いて行なわれた。分析の対象者は小学校4年生から中学校3年生までの同性の双生児366組(一卵性192組、二卵性174組)の732名である。ただし、本研究において双生児対は考慮にいれず、すべて個人データとして扱った。分析に使用した尺度は以下の通りである。
1)児童用・思春期用シャイネス尺度(菅原、2000): 対人場面における不安傾向を測定する3項目、および、消極傾向を測定する3項目より構成されている。項目は以下の通り。
・知らない子と会うのは恥ずかしい
・先生と一対一で話すのは緊張する
・私は恥ずかしがりやだと思う(以上、不安傾向)
・自分から友だちに話しかけることは少ない
・クラスの中では目立つ方ではない
・みんなの中では黙っていることが多い(以上、消極傾向)
2)学校生活での対人環境を尋ねる項目(23項目)
3)教室にいる時の気分を尋ねる項目(14項目)
4)最近1年間、学校生活に関して起こった出来事の有無を尋ねる項目(34項目)
5)Harterの自己概念尺度の日本版(眞栄城ら訳)
<結果>
シャイネス尺度の構造: 主因子法プロマックス回転の結果、不安傾向と消極傾向を示す因子が抽出された。合成得点(尺度得点)間の相関は0.398(p<.001)であった。
学校での対人環境項目の構造: 因子分析により、項目を出し入れしながら、最も解釈可能な構造を検討した結果、「からかわれ、ばかにされる」「嫌われている」などの『のけ者意識』、「活躍する場が無い」「皆は私のよさが分かっていない」など、『活躍の場の無さ』の2因子が抽出された。
教室にいる時の気分の構造: 同様の構造分析の結果、「イライラ」「キレそう」「むかつく」などの『不満感』、「不安」「さみしい」「怖い」などの『不安感』、「のびのび」「ほっとする」「あたたかい」などの『楽しさ』の3因子が抽出された。
シャイネスと対人環境、教室内の気分の関連:
不安傾向、消極傾向との関連を検討するため、そのいずれかの下位尺度得点を統制して偏相関係数を算出した(表1)。消極傾向が強い者ほど、学級集団内で『のけ者意識』が強く、『自分の良いところが活かされていない』と感じ、教室内では『怯えて』いて、『楽しさ』を感じないと答えている。しかし、不安傾向との関連は明確ではなかった。また、男女間でこうした傾向に大きな差は認められなかった。
表1 不安傾向、消極傾向と対人環境、気分の偏相関
不安傾向 消極傾向
のけ者意識 .09/ .11 .45/ .44
活躍の場の無さ .25/ .18 .22/ .34
不満感 .05/ .08 .12/ .15
怯え感 .17/ .20 .39/ .35
楽しさ .11/-.02 -.36/-.36
*数字の左は男子、右は女子を表す
シャイネスと自己概念(評価)との関係:
不安傾向、消極傾向と勉強、運動、容姿、友人関係の4つの側面への自己評価との関連を上記と同様の方法で検討した。その結果、消極傾向の高いものほど、男女を問わず、友人関係への自信のみならず運動面への自信が低いことが示された。しかし、ここでも不安傾向との関連はわずかであった。
シャイネスと学校関連の出来事との関連:
不安傾向の高低群、および、消極傾向の高低群を組み合わせて4つのグループをつくり、それぞれの群での学校関連の出来事の経験率を比較した。その結果、基本的に、不安の高低に関わらず、消極傾向の高い群では、「委員に選ばれず」、「学芸会や運動会でほめられることがなく」、「親友ができず」、「成績があがらず」、「いじめられ」、「友だちに悪口をいいふらされ」、「仲間はずれ」にされていることが示された。
<考察>
以上から日本においてもシャイネスは男女ともに児童、生徒の社会適応に望ましくない影響を与えていることが示された。また、その主たる原因は不安が高いことよりも、対人関係への消極性であることも示された。このことから治療的関与の目標として行動面の改善の重要性が浮かび上がるが、消極傾向は遺伝的規定率が高いという知見(菅原ら,2000)を考えると、こうした個性を学校側がどうフォローし、不適応化を防ぐかという環境コントロールの面にも更に注意を向ける必要があると思われる。