疾患へのアプローチ、 障害へのアプローチ

疾患へのアプローチ、 障害へのアプローチ 蜂矢英彦

地域リハビリ推進には、疾病と障害の概念自体の変革も必要であった。以前は「障害とは医学の力で治る可能性のないもので、医学の責任の範囲外にある」といった考え方があり、疾患と障害との共存という捉え方も理解されないことが多かった。良心的な医療者にも、患者を福祉施設に送るのは間違いだとか、彼らを障害者と捉えるのは、「医療の敗北」と考える向きもあった。

統合失調症の場合、陰性症状であれ陽性症状であれ、その症状の存在によって日常生活に困難・不自由・不利益が生じているのであれば、それは「障害」と捉えるべきである。そこでは、疾病に対するアプローチとしての「医学モデル」と同時に、障害に対するアプローチとしての「障害モデル」がなければならない(図1)。この「障害モデル」の実践、つまり障害によって生じた生活上の困難・不自由・不利益を軽減することを目的として、障害された機能の回復あるいは障害に対する援助と保障を行うのがリハビリである。精神障害においては、疾患と障害が共存しているのだから、治療開始とともに障害に対するリハビリを始めなければならないのである。

WHOの国際障害分類(ICIDH)以来、一般に障害はImpairment(機能障害)、Disability(能力障害)、Handicap(社会的不利)の3つのレベル、つまり生物学的レベル、個人レベル、社会的レベルで捉えられる(図2)。精神障害の場合には、精神疾患を経験したという経歴だけでも、就職、求職、結婚などに支障を来すなどの「社会的不利」は明らかであり、また職業上、日常生活上のさまざまな対応能力、処理能力に障害を来すこともしばしば経験する。これに対して、精神疾患の生物学的メカニズムが未だに不明であるため、機能障害については、身体疾患ほど明確にはなっていない。

リハビリのアプローチも、これら3つのレベルに応じて組み立てられる。すなわち、(1)機能障害には治療的アプローチが、(2)能力障害には適応的アプローチ(SST;Social Skills Training ;生活技能訓練、職業訓練など)が、(3)社会的不利には環境を改善する福祉的アプローチ(職業・所得・住居などの保障)が必要となる。また、治療とリハビリは並行して行わなければならないため、「障害の受容」をめぐっては心理的アプローチも必要となる。

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