「発作」反復でシナプス減少

脳障害のメカニズム解明 てんかんでシナプス減少
記事:共同通信社 提供:共同通信社
【2007年11月8日】
 慢性脳疾患のてんかんの中でも、薬を服用しても発作が治まらない「難治性てんかん」の患者が記憶や学習に障害をきたす場合の脳のメカニズムを、東京都神経科学総合研究所(東京都府中市)や大阪大などのチームがラットなどで解明し7日、米科学誌ニューロン電子版に発表した。
 重度の患者に脳機能障害が起こるのを予防する薬剤の開発につながる可能性があるという。
 チームによると、てんかんの強いけいれん発作が繰り返し起きると、脳で情報がやりとりされる、神経細胞の接合部「シナプス」の数が減り、記憶障害などを引き起こす場合がある。
 チームは、発作が起きたときに、神経細胞内でタンパク質「アルカドリン」が大量に作られていることを発見。詳しく解析したところ、アルカドリンが、シナプス間を接着している神経細胞の表面のタンパク質を減らす働きをすることを突き止めた。
 難治性てんかんでは、アルカドリンが過剰になった結果、シナプス間の接着が切れてシナプスが消失、数が減るらしい。
 チームの山形要人(やまがた・かなと)・同研究所副参事研究員(神経薬理学)は「アルカドリンの働きにかかわる酵素を抑える物質が薬の候補になり得る」と話している。


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従来から、てんかん発作をくり返すタイプの場合、一部は、脳神経細胞そのものが失われ、剖検すると脳体積の減少が知られ、また、CT、MRIなどの所見で、萎縮に相当する所見があると知られている。一部の違法薬物後遺症でも、同様の萎縮所見が見られることが知られている。


CTを撮影したら、まるでアルツハイマーのように、脳が萎縮しているので、驚いたものだった。


今回の研究は、そのような肉眼的萎縮所見ではなく、シナプスの数が減ること、そしてその原因は、アルカドリンというたんぱく質がつくられ、これが多くなると、「アルカドリンが、シナプス間を接着している神経細胞の表面のタンパク質を減らす」「シナプス間の接着が切れてシナプスが消失する」と書いてある。
細かいところはとにかくとして、てんかん発作をくり返しているうちに、神経細胞同士の結合が切れて、孤立した細胞になるようだ。孤立すると、細胞は死に易くなる。結果として、萎縮の所見になるのだろう。アルドカリンを増やさなければいいというなら、何とかできるのだろうか。


うつ病で使う電気ショックのときも似たようなことが起こるのだから、アルドカリンが増えないような処置をしておけばいいわけだ。まあ、そんなに何度も行なうものでもないけれど。


先日、アンジオテンシンIIを除去する抗体を誘導する高血圧ワクチンという話題を読んだが、同じような手法は使えるのかもしれない。


そういえば、アンジオテンシンIIを除去する抗体は大変有用だと思うのだが、多すぎても少なすぎてもいけないわけで、そのあたりの調整はどうするのだろう?
結核菌を攻撃する抗体ならば、どんなにたくさんあってもいいようなものだが。
血圧コントロール系はアンジオテンシンIIが関係する系だけではないということで、アンジオテンシンIIが全部除去されてしまっても問題ないと言うのだろうか?そうなれば、ネガティブフィードバックで、ややこしいことになるはずだ。


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話を元に戻すと、「発作」によって、細胞が失われる、または、細胞の機能が失われる、または、細胞間の接合が失われる、または、レセプターが破壊される、そのような、一般化して言って、細胞に不可逆のダメージを与えるケースとして、てんかん発作と、違法薬物摂取があげられるのだが、大勢に支持されているわけではない説として、統合失調症の陽性症状が急性に発現している時期には、同じようなことが起こっているのではないかとの推定があり、また、躁状態の場合にも起こっているだろうとの推定があり、さらに、うつ状態の一部の場合にも、同じ事態が起こっているのではないかとの説がある。
これは、CTやMRIで確認している所見ではないので、細胞脱失については不確か、むしろネガティブなのだが、統合失調症でも、躁病、うつ病でも、くり返しているうちに、次第に精神機能として、ディフェクト状態となることは古くから知られているところだ。
この観察は、final common pathway という言葉でよく示されているのだが、精神病というものは、始まりはよく似た状態があり、統合失調症、そううつ病、うつ病、性格障害、その他、よく似ていて、たとえば不眠とか、不安とか、そんな症状から始まり、(わたしは initial common pathway と呼んでいるのだが)、次第に、各病気の特殊な病像をとり、しかし、時間が経った後に、最後にはfinal common pathway に至り、一言で言えば、defect 状態になるとする説がある。というか、あったというか、私はいまだにそんなことも考えているというか、そんなところだ。
単一精神病観(Einheit)の脆弱な一種といえるだろう。強力な単一精神病観は柴田先生などのもので、これは本物の少数有力説である。
何故単一かといえば、理由は様々であっても、細胞が機能停止するという点では同一であるということだ。電気系統の故障は様々であっても、われわれが知るのは、要するに、「テレビが映らない」ということだというのに似ている。
現在の精神薬理学を単純化すれば、(単純化しすぎていてほとんど嘘なのだが)、統合失調症はおもにドーパミン系のシナプス部分で障害が起こり、うつ病はセロトニン系で、不安はGABA系で、それぞれおもに障害が起こるといわれている。そうだととすれば、最初はそれぞれの系で小規模に障害が起こり、小規模であるゆえに、それを補償する回路も作働して、結局、不眠などの似たような症状が起こり、その後、極期に至れば、それぞれの系に特有の症状を呈し、最後には、細胞機能停止による、共通症状を呈するのだろうと推定できる。
従って、アルドカリン増加を抑制できれば、てんかんのみでなく、統合失調症急性期、そううつ病急性期にも、脳神経細胞を保護する薬剤として有用ではないかと予想する。もしそうであれば、統合失調症における、陰性症状に対する抑止対策になり得るだろう。ジャクソニスムの観点から、それは同時に、陽性症状の抑止につながるものと推定できるのである。そして、よく言われるように、陽性症状に先んじて、陰性症状が起こるものならば、アルドカリン増加抑制でもよいし、何か他のものでもよいから、細胞のダメージを予防することで、統合失調症の進行プロセスを抑制することができるだろうと考える。


私見では、統合失調症急性期に、低体温療法によって、脳神経細胞が蒙るダメージを抑制できるのではないかと予想している。しかし、低体温療法そのものにリスクがあり、もっと洗練された手法になってから、応用すべきである。