「反応性抑うつ」「心因反応」「適応障害」について

企業に提出される診断書に書かれる診断名として、最も多いのが「うつ病」「抑うつ状態」「うつ状態」「反応性抑うつ」などである。

 このうち「抑うつ状態」「うつ状態」は、状態像の診断であり、「うつ病」は疾患名である。したがって、抑うつ状態やうつ状態を呈する疾患は、うつ病に限らず、神経症(今でいう不安障害のことで、パニック障害なども含まれる)、統合失調症、認知症、薬物因性精神障害(ステロイド薬服用中など)、身体疾患に合併する精神障害(クッシング症候群など)などがあるということになる。

 一方、うつ病という病名は、限定的な意味合いで使用されることがある。その一例が、最近増えている「反応性うつ病」(反応性抑うつ)のみを指す場合である。反応性うつ病とは、何かはっきりした原因をきっかけにうつ状態を呈した場合をいう。例えば、仕事上でミスをしたとか、行きたくない部署(医師の場合なら行きたくない病院)に異動になったという出来事が、きっかけになる。

 また「内因性で単極性のうつ病」のみを、うつ病と呼ぶこともある。内因性のうつ病は、原因が明らかではなく、素質や遺伝的素因が関係していると考えられるうつ病である。単極性うつ病は、躁とうつの両相を持つ双極性うつ病(躁うつ病)と区別する意味で使用される分類で、うつ病相のみの病態をいう。

 なお、すべての精神障害は、その原因によって「内因性」「心因性」「外因性」の3つに分類される(表1)。

表1 精神障害の原因による分類

1) 外因性 : 薬物、物質(アルコールなど)、身体疾患、脳器質性疾患
2) 心因性 : 心因や葛藤
3) 内因性 : 遺伝、素質

 外因性の精神障害は、「心の外側に原因がある精神障害」という意味である。服用している薬剤による場合や、アルコール性の場合などであり、何らかの身体疾患が原因で生じる場合も外因性に分類される。脳腫瘍などの脳内の器質性疾患は少し分かりにくいが、「心の外側に原因がある」という定義から考えれば、外因性に分類されることが分かるだろう。外因性のうつ病は意外に多く、例えば糖尿病患者の10~20%にうつ病が合併するし、パーキンソン病に至っては30%以上にうつ病が合併すると言われている。

 心因性の精神障害は、心理的な原因や性格的な葛藤があって生ずる精神障害のことである。従来の「神経症」が典型例であり、しばしば話題になるPTSD(心的外傷後ストレス障害)や、先述の反応性うつ病も、この心因性精神障害に入る。

 内因性の精神障害は、素質や遺伝によって生ずるもので、統合失調症、躁うつ病、再発を繰り返す単極性うつ病などが、これに分類される。

「心因反応」から「適応障害」へ
 「心因反応」という診断もよく聞くが、これは医師側からすると、とても使いやすい病名である。何らかの心理的なきっかけがあり、その反応として生じた精神障害のすべてを包含した病名だからである。症状は何でもよく、不安でも、不眠でも、幻覚や妄想でも、抑うつ症状でも、躁症状でもよい。つまり、「心因反応」という診断に比べると、「反応性うつ病」は、とても正確な診断ということになる。

 現実には、統合失調症も心因があって発症することが多いため、特に初期の段階での患者や家族への説明、診断書やカルテの記載に、「心因反応」という診断名が使われることが多いようである。

 この心因反応は、精神医学の臨床でも以前は多用されていたが、最近ではこれに代わって「適応障害」が使われるようになっている。適応障害という病名は、ショックがあっても人間はそれに適応するように努力することが前提となっており、それに失敗すると心身の症状が現れるという考え方である。心因反応と同じように広い病態を指すが、病気の主体が「イベント」から「人間」にシフトしてきたことで、新たに登場した病名と言えるだろう。具体的には、新しい職場に慣れずに不眠気味になるなど、職場への不適応が続いている状態が「適応障害」である。