風景構成法の私的実践

参考書としては、
風景構成法 その基礎と実践  皆藤章/著    誠信書房 1994年が
臨床心理の先生方には好まれていた。

ある記事では以下のように説明がある。解説を加えつつ自分流を書いてみる。

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1969年に中井久夫によって創案された。分裂病者への心理療法の試みとして描画法
を導入。箱庭療法の用具がそろうまでの便法として,画用紙の上に描く箱庭として,風景
構成法を試みた。その際,箱庭における枠の意味を重視した中井は,画用紙にクライエン
トの目の前でセラピストが枠を描いて与えるという「枠付け法」を発見した。風景構成法
はその後,投影法として,また芸術療法として有効であることがわかり,わが国のオリジ
ナルな非言語的接近法として評価されている。

(1)風景構成法の実施法
①用具:黒のサインペン(油性のものがよい),彩色用クレヨン,またはクレパス。色鉛
筆。A4の画用紙
②手順:枠付け法は描き手の見ている目の前で行い,改めて手渡す。
・絵の上手,下手をみるのではないことを断り,好きに描いてよいことを保証する。
・教示「今から私が言うものを一つずつ描いていってください,全体として一つの風景
となうようにしてください」
※教示:1.川 2.山 3.田4.道 5.家 6.木7.人 8.花 9.動物
10.石 11.付け加えるもの
・質問に対しては「自由にどうぞ。」各アイテムの拒否も認める。
・相手に侵入的にならないよう,存在することによって相手が受け入れられると感じら
れるようにする。
・アイテムを描き終わったあとに,彩色をするように指示を出す。

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中井久夫先生は京都の大学を出て、東京に来て、精神科の実践を始めた。
市中病院で働いているとき、
箱庭療法に導入すると症状が悪化する統合失調症の患者さんが一部いたので、
事前により分けられないか、考えた。
当時、バウムテストなどの描画法があった。
中井先生は、田舎の風景を書いてもらうことで、
箱庭療法の簡易版にならないかと考えてはじめたと聞く。
ところがそれは、箱庭療法にも増して、
統合失調症の病理を鋭く判別する材料となることが分かった。

1.「枠付け法」
箱庭における枠の意味を重視した中井は,画用紙にクライエントの目の前で
セラピストが枠を描いて与えるという「枠付け法」を発見した。
この枠の中は、あなたの心の中、と限定して、枠をつける。そのことで患者さんは安定する。
無際限に病理を放り出さないですむ。

2.実施法
①用具:黒のサインペン(油性のものがよい),さくらのものと伝統で決まっている
彩色用クレヨン,またはクレパス。色鉛筆。これについては、柔らかさの点から、クレヨンがよい。色数は12色でよいが、事情により多くてもかまわない。12色のほうが混色する楽しみが大きいと思う。
A4のケント紙を用いている。
②手順:枠付け法は描き手の見ている目の前で行い,改めて手渡す。「これはあなたの心の中。だから自由にしていいんですよ。でも、外側には出さないんですよ。」くらいを言い添える。
「絵の上手,下手をみるのではない」ことを断り,「好きに描いてよい」ことを保証する。これを見て、薬を変えることもないと言い添える。

「田んぼのある田舎の風景を書いて欲しいのです。今から私が言うものを一つずつ描いていってください,全体として一つの風景となうようにしてください」と話しておいて、
1.川 2.山 3.田4.道 5.家 6.木7.人 8.花 9.動物10.石 11.付け加えるもの
この順に描いてもらう。
「質問があったら自由にどうぞ。」各アイテムの拒否も認める。
相手に侵入的にならないよう,負担になりすぎるようだったら、途中で中止する。
アイテムを描き終わったあとに,彩色をする。

まず「田舎の田んぼのある風景で、川とか流れているんですよ」とイメージを与えておいたほうが、混乱が少ない。
二度目からは、イメージが大体つかめているが、一度目は、概略のイメージを最初につかんでもらったほうがいいように思う。
ここを詳しく言わないで、難易度を高めてテストするのも一法である。

最初に「川」を指定するのは、実はかなりハードルが高い。
クライアントの様子を見て、ハードルを低くしたいなら、川は後回しにして、山からはじめてもよいと私は思う。
皆さん扱いに困るのが、川と道であり、それが画面を大きく構成するからだ。
それについては、二度目、三度目で大きく変化することが多い。

人や動物については、描きなれている人とそうでない人に差が出る。
描きなれていない人は記号のようになるが、それでもよい。

医師については、「砂、意思、岩石、そんなもの」というように拡大して提示する。

付加物としては、太陽とか、人間を後何人とか、そんなものが多い。

時間がないときは、彩色は省く。
時間があるとき、また患者さんが安定しているときは、風景を拡大して、
星空につなげてもう一枚かいてもらったりもする。

最後に短くていいから感想を聞いて記録する。
おおむね、「思ったより下手」「久しぶりで懐かしい」そんな言葉。
この人はどんな人?と聞いて、しばらく解説してもらったりする。

私の場合は、待っているあいだに暇なので、自分でも描くことがある。
見せ合う。
一体何を診断されるのかと不安になっているから、
自由でいいんだなと思ってもらう。
診断のための心理テストだと思わず、
時間つぶしのための、幼児がえり的な時間だと思ってもらえれば一番だ。
実際、そのようなものともいえる。
一種の退行を促す。
なかなかブロックの固い人に、ブロックを解除してもらうのに役立つ場合もある。

何回か書いてもらうことで、患者さんは安定してくる。
これは、なれてくるので、自分なりに構図が決まってくるということもある。
決まってきた中で、その日の気分によって、変化が出てくる。
そのあたりの長期的な変動を見ていく。

場合によっては、
前回描いた絵を参考にして、
ここの部分を拡大して書いてみましょうと設定し、
花の部分や人間、小動物、家の部分を拡大することもよい。

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ブロイラーがassociationの障害といったとき、
言葉や概念の連想がうまく行かないこと、まとまりがないことであった。

風景構成法では、川や山や田んぼの関係が把握できて、

合弛緩がそこにないか、見ることができる。

ヘベフリニータイプとパラノイドタイプはやはりかなり様子が異なる。
アイテムを順番に5センチくらいの大きさで隅から順番に並べるだけの人もいるし、
漢字で、隅から並べるだけの人もいる。
画面から溢れそうなSFみたいな田園風景構図の人もいる。まるで未来都市。

たとえば、薬剤中毒では、ほとんどまったく違うアイテムを描いて、
あら、どうしてわたし、こんなの描いたんだろうと言っている人もいる。
小動物は怪獣になり、火を吐いている。

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解釈について、これは、患者さんとの面接とミックスして、
柔軟に、アートとして、解釈していくしかない。

教条的に、何は何の表出とか、素人夢分析のような、夢占いのようなことがあるわけではない。
背景には、患者さん独自のイメージシステムと、概念関係システムがあるので、
そこに寄り沿って感じていくことだ。

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ケント紙そのものを保存してもいいが結構かさばる。
昔は写真を撮ってスライドに保存していたものだ。
これは箱庭療法の伝統である。
現在は、スキャナーでもよいが、何と言っても、実物が一番いい。
シリーズにして見返してみて、インスピレーションが湧くこともある。

他の治療者に見てもらい、アドバイスを請うこともできる。

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描画はやはり子供の頃から得意だったとか、下手だったとか、
そのあたりの差が出てしまう。
上手かどうかをみるものではないし、病理との関連はないと思う。
しかしやはり、
自分はこんな絵を描くはずではなかった、
これは絵としておかしい、などという患者さんがいて、
その場合、
この絵を描いたという事実と、
その絵を変だと思う事実が並存している。

これは重要なことで、
何がおかしいと思うのか、聞く。
それは訂正能力の養成になる。
自分を訂正することは根本的に大切だ。

何度も描いているうちに風景としてまとまりのあるものになってくる。
まとまりが出てくることが治療である。
絵の上でのまとまりが観念同士のまとまりにつながり、
連合弛緩の治療につながるかもしれないと期待する。

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絵の上手下手を緩和するために、
コラージュ法があり、風景構成法と補完しつつ用いている。

http://shinagawa-lunch.blog.so-net.ne.jp/2007-03-15-46
これはコラージュについての話。

また風景構成法の中から、
木だけを取れだせばバウムテスト、
木と家と人を取り出せば、THPになる。

治療者は試行についても、自由自在に考えればよいし、
解釈は創造的に。

たくさん見ていると、やはり明らかにいくつかの傾向はあり、
そこに何かが現れていると思う。
したがって非常に有用。
ただ時間がかかるのが難点。