EAP Q&A 2007-11-3

EAP Q&A 2007-11-3


1.健康な社員は、創造性が豊かで、生産性も高い、だから、社員の健康を守る、という言葉は、正しい気もするが、病気になってしまった人にとっては、厳しすぎる言葉のように思える。


健康な社員だけが創造的で生産性が高いとは限らない。人間はそれほど単純ではなく、仕事もそれほど単純ではない。単純肉体作業は、健康な人がいいと簡単に言えるが、創造的で複雑で対人折衝もある仕事では、単純ではない。休職中にいいアイディアがひらめいたりもするものだし、休職中にパソコンに向かって、新しいデザインをプールした人もいる。しかしながら、こうした議論は、総合値や平均点で語るしかないわけで、平均的に言えば、やはり健康な人のほうが仕事ができる。だから、会社も社員も健康に配慮したほうがいい。


2.メンタルの病気になったとして、職場環境の問題と、個人の体質や考えたかの問題と、どう判定されるのか。

そこが問題。客観的に公平にを厳密に心がけている。
一つ考えたいのは、お金がどこから出ているかである。最終的には、お金を出している人の味方だと思っていいわけだ。お金を出している側は、気に入らなければ、契約先を変更する自由がある。
企業に甘いEAP機関と契約したほうが企業としては都合がいいと誰でも思う。
医療機関は企業との契約はないから、患者の立場で一貫できる。しかし、患者さんの復職後の処遇を考えると、企業とけんか腰というのは、よくない。


3.社員研修プログラムにはどんなものがあるか?

管理職向け
メンタルヘルス研修
ハラスメント防止研修
コミュニケーション研修
性格分析研修(リーダーシップスタイル研修)


一般社員向け
メンタルヘルス研修
ストレスマネジメント研修
EQ研修


その他
メールカウンセリング
セクハラ相談窓口の設置(メール対応)
ハラスメント相談窓口の設置(メール対応)


4.ストレス耐性を高める方法

「気持ちを切り替えよう」「前向きに考えよう」「ポジティブ思考」などが提案される。ストレスは「認知(考え方)」の問題であり、「認知」を変えればストレスは解消できる。しかし簡単ではない。認知を変えるのはこの先でいい。仕事の場面で行動を変える。具体的な行動を変えれば気持ちも変わる。考えはそのあとで自然に変わる。


5.各種サポート

メンタル相談というと、自己啓発的な、あるいは、支持的カウンセリング的なイメージがある。
しかしそればかりではない。
(1)問題を現実的に解決するサポート。借金をどうするか、たまった仕事をどうするか、現実を解決する。
(2)役立つ情報、道具を提供する。相談機関を紹介、詳しい人を紹介、本やサイトを紹介。
(3)慰め、励ましなど、本来の心理的サポート。


6.なぜメンタル強化?

会社の環境を変えればいいと分かっていても、時間も費用もかかる。ストレス要因の改善よりも、メンタル能力=ストレス耐性のほうが早く対応できる。その人は、会社生活だけでなく、人生全般にわたり、ストレスに強くなる。その一方で、他社との競争に勝ち抜くためには、長期的な視野で会社風土を改善すべきだとの提言を続ける。


7.社内システムの変更は有効か

簡単ではない。軋轢もある。他の人が発症してしまうこともある。しかし長い目で見て有益なら、アドバイスする。


8.集中できないのはなぜか。

もちろん、うつ病で「やる気がないから」という場合がある。
性格として「根性が足りないから」という場合もある。
しかし、朝食を抜いているため、頭のスタミナとなるブドウ糖が脳に届いていないのかもしれない。
不眠で頭が働かないのかもしれない。
極端な冷え性かも知れない。
何か病気かもしれません。
家族の病気が気になっているかもしれません。
内容不明のサプリを使っているのかもしれない。


9.より生産性の高い組織

個人の自己啓発を求めているだけでは、社員のモラルは高まらない。会社として、職場環境を整備し、制度を進んで整えていくこと。できることはいくつもあるはずである。


10.社員のプライベートな問題であるし、職場のデリケートな問題である。外部の人が対処できるでしょうか?

丸投げしてアウトソースするだけでは、解決には程遠い。形だけのレポートを受け取って、そのままになるだけ。そのうち担当者が替わる。そうではなく、真の意味での連携を構築することが必要。


11.メンタルヘルスの専門性は確保されているか

それは見極める必要がある。守秘義務等、法律上の規定遵守については分かり易い。しかしカウンセリングのレベルとなると、さまざまであり、見極めは簡単ではない。


12.外部機関と職場の連携を求めているのに、連携が欠ける場合も散見される。

これがこじれる原因。患者さんが一番迷惑する。


13.医療関係者がEAPを手掛けることに疑問

医療機関とのつながりをあまり前面に出すと、社員が相談する上での敷居が高くなり、「予防」という機能が損なわれるおそれがある傾向はある。
しかしまた、医療機関がバックアップしていなければ、専門性が維持できない。医療機関があまり前面に出ることなく、しかしきめ細かく連携することが望ましい。


14.EAPは「中立」か

会社員は同じ企業の社員、特に人事マンには悩みを打ち明けようとしない。社員は社内の相談室を利用しない。自分の悩みを会社側に知られたくないからだ。外部のEAP企業は守秘義務を法律的に義務付けられている。


15.日本版EAPは医療主導型か生産性向上型か

米国では生産性向上か第一義の傾向がある。メンタルヘルス産業は花盛りだ。日本で同じようにできるか、今後の動向を見る必要がある。事業主としての健康管理、危機管理が重視されることは間違いない。


まずEAPで対応、その中で医療が必要なケースをピックアップして、医療につなげる、と簡単には考えられるが、実際はそう簡単ではない。「そのケースで医療が必要か」この点を見極めるのがすでに高度に医学的な判断である。しかしだからといって、大部分を医療につなげてしまったのでは、効率も悪いし、敷居も高くなる。今後の課題である。われわれは、医療機関の敷居を低くすることで対応する。


16.法律の根拠は?

1999年からは労災の過労死自殺認定条件が大きく緩和された。その後、蓄積疲労の評価期間は発症前6ヶ月に緩和された。社員の過労死で訴られた電通は、最高裁で敗訴し、遺族に1億6800万円の賠償金を支払った。社員のストレスを放置するのは、企業とっては大きなリスクだと周知された。厚生労働省の指針(「事業場における労働者の健康づくりのための指針」)では、必要に応じて事業場外の専門機関によるケアを利用するのが望ましいとしていて、それを根拠に、EAPがサービスを提供している。


17.加古川労基署(神戸製鋼所)事件

精神疾患による自殺で労災を認める司法判断が下された初めてのケース。神戸製鋼加古川製鉄所に勤務していた同社社員(当時25歳)は、入社1年目の83年12月インド・ムンバイに出張。翌年1月、現地企業とトラブルが発生。その直後から元気がなく、心因性の精神障害が生じた。そして同月17日、ムンバイ市内のホテルの窓から飛び降り自殺をした。遺族は、84年に労災を申請。しかし加古川労働基準監督署はこれを却下。遺族側が提訴し、96年4月の神戸地裁の判決で、ようやく労災認定が下った。


18.川崎製鉄水島製作所事件

川崎製鉄所水島製鉄所の渡辺さん(当時41歳)は、91年1月、中間管理職である条鋼工程課係長に昇進した。その後約半年間、休日は2日しかないなど、長時間労働を強いられてきた。過労によるストレスで、うつ病の治療も受けていた。そして6月、同工場の本館8階屋上から飛び降り自殺をした。遺族は94年6月、倉敷労基署に総裁認定による遺族補償年金などの支給を申請したが、同労基署は97年7月、不支給を決定。その後、国の労働保険審査会に再審査を請求し、2000年3月、労災が認められた。


19.労働安全衛生法・安全配慮義務と労災問題・巨額の賠償

労働安全衛生法は、事業者が守るべき安全衛生の最低基準を定めたもので、職場の安全衛生の確保と労働者の健康の増進および快適な職場形成への努力義務を定めている。この法律に違反して、労働者が死傷した場合などでは、事業者は業務上過失致死傷罪に問われる。事業者は通常代表取締役であるが、大きな組織では責任を一人でカバーしきれないため、部長や課長などの現場の管理監督者に安全衛生管理を行う責任が課せられる。つまり、部下に万が一のことがあれば、経営者のみならず管理職も業務上過失致死傷罪が問われる場合もあるということになる。これは刑法上の責任であるが、これだけでなく民事上の損害賠償責任が問われることもある。仕事が原因で怪我や病気をした場合、労災保険の適用になるが、事業者が不法行為、つまり安全衛生管理違反をしていた場合には、民事上の損害賠償責任が問われる。労災保険の適用額が、この損害賠償責任をカバーしきれない場合、その分を現場の管理職が負担しなければならなくなる。長時間の残業を続けていたり、職場の人間関係に悩んでいた部下が、うつ病になり自殺してしまったというようなケースでは、1億円以上の損害賠償が通例となりつつある。


20.電通事件

電通事件は、過労による「うつ」の自殺で、企業に損害賠償責任を認める判決が初めて出されたケース。大嶋一郎さん(当時24歳)は、90年4月に大手広告代理店電通に入社。ラジオ局に配属され、企画、宣伝等の業務を担当。入社後半年もたたないうちから連日の深夜残業、徹夜の仕事を繰り返すようになった。91年3月ごろには家族が心配するほどに、心身が疲労。それでも仕事を減らすことはできず、次第にうつ病と見られる症状も現れた。そして8月27日、担当イベントが終了し、業務上の目標が一応達成されたことに伴って肩の荷が下りた心理状態になるとともに、再び従前と同様の長時間労働の日々が続くことをむなしく感じ、うつ病によるうつ状態が更に深まって、衝動的、突発的に自殺した。93年に、大嶋さんの両親が会社からの十分な説明がないとして、東京地裁に提訴。96年3月、一審の東京地裁は全面的に会社の責任を認め約1億2000万円の賠償を命令。97年9月、二審の東京高裁も会社の責任を認めたが、「義務感の強い大嶋一郎さんの性格も原因。両親にも責任がある」と賠償額を約8900万円に減額した。これを双方が上告し、2000年3月、最高裁が二審判決を破棄、審理を東京高裁に引き戻した。これは実質的に遺族側の全面勝訴となった。2000年6月、東京高裁の勧告に従って和解が成立。電通が遺族に支払った額は1億6850万円であった。この判決が重要なのは2点。1つは業務と過労自殺の間には因果関係があると裁判所がはじめて認めたこと。もう1つは、会社の安全配慮義務違反の責任が認められたということ。


21.オタフクソース・イシモト事件

広島地裁で争われたオタフクソース事件では、室温、湿度が高く、刺激臭も強い工場内での過密かつ長時間労働から自殺した社員の遺族に対して、2000年5月、1億1100万円の損害賠償の支払いを命ずる判決が下りた。本件判決のポイントは、自殺した社員がうつ病を罹患した後において精神神経科を受診しなかったことおよび自殺に至ったことについては、その社員の過失と認めるのは相当でないとして、被告らの過失相殺の主張を退けた点である。