症状をジャクソニスム的に解釈する

ドネペジルはアルツハイマー病患者の興奮を改善しないとの記事があった。

当然だと思うが、解説する。

精神症状を解釈するとき、有力な手段として、ジャクソニスム的解釈がある。

1.

脳の構造は、層的であり、上位階層に位置する回路は、下位階層回路を、コンピュータプログラムでいうサブルーチンのように使いながら支配している場合がある。また、上位階層回路は、下位階層回路を、抑制的に制御している場合がある。

2.

上位と下位がメインルーチンとサブルーチンの関係にある場合、メインルーチンが機能停止すると、「まとまりのない」状態になる。統合が失調するとは、まさにこれを指す。

3.

抑制的に制御している上位階層回路が機能停止(A)した場合、抑制されていた下位階層回路機能が突出(B)する。さらに生体は、こうした異常事態に対して反応する(C)。

結局、目の前に症状として現れているものは、A+B+Cの複合であるということができる。

4.

Bの例としてあげられるのは、膝蓋腱反射である。

Aとしての、上位抑制が、脳血管障害などのために機能停止する。

ここで、Bだけを症状とするのではなく、一体のものではあるが、Aを症状として意識し、記載することが、症状の分析となる。

5.

統合失調症において、陽性症状、陰性症状と呼ばれているものは、用語の定義によるのであるが、理論的には、上記、BとAに相当するとしてよい。私見では、統合失調症において、その他に、Cの要素を見るべきである。

6.

たとえば、妄想に支配されている人の場合。

A……現実と内的想念の比較照合訂正機能の脱失。

B……内的想念の、無訂正の突出。

C……辻褄を合わせるための、妄想体系の構築。

上記三要素の併存として、症状は成り立っている。

7.

たとえば、うつ病の場合。

A……抑うつを訂正する上位回路の機能停止。

B……抑うつ回路の突出。

C……反応性に出現する不安焦燥。

うつ病の中に、上記三要素の併存を見る。

8.

たとえば、アルツハイマー病の場合。

A……上位機能の停止、たとえば、記憶障害。

B……下位機能の突出、たとえば、興奮。

C……辻褄を合わせて状況を解釈するために妄想の構築。

こう考えることを基本とすれば、ドネペジルは、Aのプロセスを遅らせるものであるから、興奮を改善しないのは当然である。興奮を改善するには、上位からの抑制的な制御を補助するような薬剤か精神療法的な働きかけが有効なはずである。

9.

上記は、理念型であって、実際に三要素を「機械的に」切り出して記述解釈することは現状では難しい。

しかし、脳の構造に由来する当然の機能解釈であり、根本的に有効であると考える。

10.

機能には、それを可能にする構造がある。脳の場合、上位構造は下位構造を抑制的・統合的に修飾している。この二つの原則から、以上のすべてを演繹することができるのである。ジャクソニスムは偉大である。

11.

もちろん、脳の構造の原則にはこれ以外にも多くの要素がある。しかし、これが、根本原則のひとつだという議論である。