山内教授のうつのお話-3

さて実際に一個の細胞をここに持ってきて、実験することとしましょう。
生体内では、たとえば次のように存在しています。
近赤外微分干渉顕鏡を用いて、神経細胞を細胞内染色する手法を用いたものです。

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さて、実験で使いやすいのは、イカの巨大神経です。
樹状突起に刺激を与えて、軸索に伝わる反応を見るわけです。
それを電気刺激で拾ってもいいし、最終的なセロトニンの分泌で見てもいいのですが、電気的測定のほうがしやすいので、そのような方法を採用しましょう。

すると、普段は-70くらいの電位が、-55の敷居を越えて、+40のピークに達し、
そのあと過分極などが見られています。そのあとに不応期が来て、
そのときに新しい刺激が入ってきても、反応しません。
これを不応期といいます。
ひとつは過分極が残っているためであり、ひとつには、敷居値が高くなるので、
反応しにくくなるわけです。
これは実際の現実界で、過剰な反応を抑制するために必要な仕組みだと思います。

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さて、ここまでは理解できたでしょうか。
質問があれば、どうぞ。

司会.皆さん生物学で習っているようですね。

PEY.では、ここからがうつ病の話になります。
うつ病というのは、みなさんの印象では、しょんぼりしている、しなびている、枯れている、
悲しい、元気がない、などではないでしょうか。

失恋したり肉親がなくなったり、ショックで、しばらく脱力しているのも、うつという言い方をするでしょうね。それらを「反応性のうつ」と呼んでいます。反応性のうつもうつ病の一種ですし、そうではなくて、原因がはっきりしないタイプのうつ病もあります。

実際は、イライラして怒りっぽくなったりするタイプがあり、これがうつかご家族は驚いたりすることがあります。
うつ病の場合には、不眠になることが多いのですが、ときに過眠になることもあり、また、食欲不振になることが多いのですが、食欲亢進することもあります。

実は、うつ病についての正確な定義はまだありません。
正確な定義を作るための作業委員会がデータを蓄積し解析するために定めた分類ならばあります。DSMやICDといわれるものです。しかしその暫定的診断基準によって決めた場合に、何を含んでいるか何を含んでいないか、いろいろと問題があるのです。
反応性のものをどうするか、子供のケースはどうするか、他の病気との関係が疑われるけれども、因果関係がはっきりしない場合、これらのもので、意欲がなく、興味もなく、ないてばかりいて、死にたいと言っているとき、それをうつ病と言うのかどうか、まだはっきりしていません。

おおむね、DSMでいううつは広すぎるのですが、それにも理由があり、アフリカのうつも南米のうつも中国のうつも採録すると、DSMみたいな感じになるわけです。日本で従来診断されている狭い意味でのうつ病はある程度一時期の日本に固有のものだった色彩もあるのです。
世界中を見渡して見て、「憑き物」とか「シャーマン」とか、そういった文化・地域・歴史的なものは多いわけです。例えば、何かの鳥が現れたら、一ヶ月くらい泣いてばかりいるとか、そんな反応もあるわけで、そのような文化の中で生きているとしか言いようがありません。

はっきりさせるためにも、うつ病の原因を突き止めることが必要なわけです。少なくとも、一部のうつ病はこんな原因で起こるのだとわかれば、違うタイプのものは、どこからが共通なのか、共通でないのか、違いは何に原因していて、どのような違いが現れるのか、そんな風に話は進むでしょう。

うつ病の原因は現状では謎なので、いろいろに説があります。セロトニン仮説にしても、また他の神経伝達物質のことに関しても、原因なのか結果なのか、決め手がありません。セロトニンが原因であるうつ病もあるかもしれませんし、結果としてセロトニンに異常が起こるうつ病もあるのかもしれません。

ここでは私の説を紹介したいと思います。神経細胞を反復刺激したときの反応で神経細胞を特徴付けて、それを基盤にして、躁うつ病を説明します。

司会.いよいよですが、ここで休憩を取りましょう。