サラリーマンのうつ病の難しさ

前に紹介した論文で、離脱症候群について記述がある。

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離脱症候群
 SSRIを急激に中断したり、減量した場合、気分の悪化、激越、神経過敏、易疲労性、頭痛、めまい、ふらつき、入眠困難などの中断症状が現れることがある。一般的には一過性で軽症であるが、稀に重症となることがある。
 英国NHS (National Health Service) の報告によると、paroxetine は fluvoxamine の 11倍、sertraline の 7倍以上の中断(離脱)症状が発現していた。Stahl は、paroxetine について、アカシジア、落ち着きのなさ、悪心なとの消化器症状、ふらつき、知覚異常といった離脱症状が他の SSRI より生じやすいと述べており、多くの患者では、3日間で 50%、さらに残りの 50%を 3日で減量しその後中止するのが良いとしている。
 paroxetine の中断症状発現には、セロトニン作用に対するリバウンド、ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗作用、力価の高さなどが関与していると考察されている。

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これは、気まぐれに、勝手に、急にやめれば、まずいですと言っているだけで、薬をやめられないと言っているわけではない。
SSRIはやめられない薬との流言もあるが、みんなきちんと手順を踏んでやめている。

治っていないのに、無理をしてやめると、苦しいというのは、他の薬でも同じ。

paroxetineについてよく言われるのは、比較的難治性の症例にも使うからで、
また、早く治したいときにもparoxetineを使うからで、
軽い症状で、ゆっくり治してもいい場合には、paroxetineを使っても、やっぱりうまく行くはずである。
重い症状で、早く治したいときにparoxetineを使うけれど、うまく行かないこともあり、それでparoxetineが非難されたりする。

重症の人を治そうとする薬は、苦労の割りに、感謝されないのが実情である。

すっかり回復するタイプの人は、
よくなってくると自然に薬を飲み忘れて、
一週間したら2個くらい余っているなどということがよくある。

すっかりは回復しないタイプの人も現実にはいるので、
そういう人が断薬を強行するときついことになる。
その場合には、現実を認識する能力が弱っていることもよくある。
冷静に考えれば、理由のない断薬は危険だとすぐに分かる。

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さらに付け加えると、
実はサラリーマンは、厳しい立場である。
うつが治った後、どうなるかといえば、当然仕事の負荷が増す。ぎりぎりまで増える。
自営業ではないので、仕事を自分で決めることができない。
組織の中にいる限り、仕事の負荷は増える。
だからいつもうつの再発の危険を抱えている。
したがって、抗うつ剤を早くやめるのはとても危険だということになる。

たとえば、自営業で八百屋さんをしていたとすれば、
仕事の量は自分で調整できる。
仕事を減らそうと思ったら、近所の八百屋さんに頼んで、お得意さんを分けてあげればいいのだ。
司法書士とかも同じ。クライアントを制限して、振り分けていればいい。
収入は自分で決められる。木曜日を定休日にしてもいい。
自営業が楽だなんて全然思わないが、特有のきつさもあるし、
特にうつで判断が鈍っているとき、決断の全部が結果に反映されてしまうので、
きついけれど、それでも、
できる範囲で収入を確保すればいいと居直ることもできる。

サラリーマンはそうはいかない。
定休日を自分で決められるサラリーマンはいない。
わたしは給料は頭打ちでいいから、無理しないで長く勤め続けたいと言ったとして、
組織はそれを許さない。
その働き方は、派遣労働者になる。
派遣なら、仕事を選んで、通勤先を選んで、曜日を選ぶこともできる。
正社員で、会社の人事の流れに乗っている限りは、
やることはやってもらわなければならないし、
やらないなら、それなりの処遇を受け入れてもらわなければならない。
まったく厳しい話だが、最近の会社は、昔のような生活互助会ではないので、仕方がない。
松下でさえも、互助会をやめた。
こうした場合は、抗うつ剤をある程度長く続けないと、体質改善はできないし、
役職も続けられない。

万年平社員という言い方もあるが、
万年平社員が気楽でいい商売かどうかは、
本人が一番よく知っている。
うつ病の現実が示している通りである。
気の毒なこと限りない。

まったく厳しい現実である。
なるべく慎重に対処するしかない。

本人以外に苦しみは分からないのだ。
好き勝手なことを言うことはできるが、
痛みを感じていない人に何を言ってもらっても、どうしようもない面もある。

冷静によく考えれば、どうしたらいいかは分かるのではないかと思う。
その判断が曇るときは、病状がかなり悪化しているといえる。

重々分かってはいるが、
一時の気の迷いは誰にもある。
しかし、思い直したら、また一緒に治療していこう。
先は長いが、悪いことばかりではない。

昔に比べたらずいぶんいい薬になって、
患者さんは助かっているのだ。