学習障害 Learning Disabilities  LD

学習障害の定義 Learning Disabilities  LD
1999.7.2
学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。

学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。 
 
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学習障害の定義の解説
1999.7.2
[1] 学習障害の特徴
ア 学習障害とは、知能検査等の結果から、基本的には知的障害のような全般的な知的発達の遅れは見られないが、学業成績、行動観察、詳細な心理検査等により、学習上の基礎的能力である聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力を習得し、使用することについて、1つないし複数の著しい困難があると見られる様々な状態を総称するものである。 
イ 中間報告の定義では、能力の範囲に「など」をつけ、解説において「など」による能力には、運動・動作の能力、社会的適応性に係る能力が考えられるが、具体的な内容とその限界について更に検討を進めるとしていた。
しかし、全米学習障害合同委員会の定義では対象となる能力は限定列挙であること、都道府県教育委員会等からも学習障害の範囲が不明確になるという意見があったこと、運動・動作の能力や社会的適応性に係る能力の欠如が学習障害に重複して現れることはあるが、その能力の欠如のみでは学習障害とは認定し難いことから、学習障害の対象となる習得と使用に著しい困難を示す能力の範囲は、「聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力」に限定することとした。 
ウ なお、推論する能力には、図形や数量の理解・処理といった算数や数学における基礎的な推論能力が含まれていることに留意する必要がある。 

[2] 学習障害の原因
ア 学習障害の直接の原因は、個人に内在するものであり、中枢神経系の何らかの機能障害によるものと推定される。つまり、様々な感覚器官を通して入ってくる情報を受け止め、整理し、関係づけ、表出する過程のいずれかに十分機能しないところがあるものと考えられる。しかし、中枢神経系のどの部分にどのような機能障害があるかについては、まだ医学的に十分には明らかにされていない状況にある。
学習障害は、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの他の障害、あるいは児童生徒の生育の過程や現在の環境における様々な困難といった外的・環境的な要因による学習上の困難とは異なる。また、ある教科に対する学習意欲の欠如や好き嫌いによるものでもない。 
イ 除外すべき障害の例示につけた「など」の障害には、言語障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱がある。
なお、言語障害については、器質的又は機能的な構音障害や吃音等の話し言葉のリズムの障害そのものは、学習障害の直接の原因となるものではないが、話す、聞く等言語機能の基礎的能力に発達の遅れがあるという状態については、学習障害でも同様に見られることがあることに留意する必要がある。 

[3] 他の障害や環境的要因との重複
ア 中間報告の定義では、他の障害や環境的な要因が学習障害の直接の原因ではないが、「ともに生じる可能性」があるとした。しかし、他の障害や環境的要因が重複する場合、それらによってより困難な状態が生じることはどの障害でも同様であり、学習障害以外の障害の定義では重複する障害との関係は示されていないこと等から、重複障害についての記述は定義ではふれないこととした。 
イ 知的障害と学習障害の関係については、教育上の措置を考えるに当たっては、[1]にも述べたように基本的には全般的な知的発達の遅れがないことの確認を要件としていることから、知能検査等の結果、あきらかに知的障害が見られれば、知的障害の養護学校や特殊学級で教育を行うことが適当である。
ただし、知的障害でありながら話す、書く等の学習の基礎的能力に大きな能力上のアンバランスがみられる等学習障害と同様の状態を示す場合がまれに見られるが、そのような場合は、知的障害児を対象とした教育の場の中で、必要に応じて学習障害としての配慮をすることが適当である。 
ウ 知能検査の結果が、知的障害との境界付近の値を示すとともに、聞く、話す、読む、書く等のいずれかの学習上の基礎的能力に特に著しい困難を示す場合の教育的な対応については、その知的発達の遅れの程度や社会的適応性を考慮し、学習障害として、通常の学級等において学習上の基礎的能力の困難を改善することを中心とした配慮を行うか、知的障害として特殊学級において学習上の困難への対応を工夫することが適当である。 
エ 視覚障害、聴覚障害等他の障害と学習障害が重複する場合についても、主たる障害に対応する盲・聾・養護学校や特殊学級における教育、通級による指導等の中で、必要に応じて学習障害としての配慮をすることが適当である。 

[4] 行動の自己調整・対人関係の問題
ア 学習障害児には、行動の自己調整や対人関係などに問題が見られる場合がかなりあることから、これらの問題が「学習障害に伴う形で現れることもある」旨を中間報告の定義に記述した。具体的には、例えば学校生活において、注意集中の困難や多動、対人関係などの社会的適応性の問題が現れることもある。このような問題は、一次的に学習障害と重複して現れている場合と、学習障害による学習上の困難の結果、そのような問題が二次的に生じている場合がある。
このような場合には、学習障害児に対する指導の中で、それらの問題の改善につき配慮する必要がある。 
イ しかしながら、このような問題のみが生じていたり、このことが主たる原因として学習の遅れが生じている場合は学習障害ではないことから、定義では触れないこととしたが、その困難の程度に応じて、情緒障害の特殊学級における教育や通級による指導などの対応を考慮するか、通常の学級において授業に集中しやすい環境の整備や対人関係等の改善に配慮する等の教育的対応を考慮する必要がある。 

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そして、特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議は、2002年10月21日付けで「今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)」を公表しました。この「中間まとめ」は、2002年2月から3月にかけて全国5地域の公立小学校(1~6年)及び公立中学校(1~3年)の通常の学級に在籍する児童生徒41,579人、370校の4,328学級を対象にして実施された調査結果等をもとにして、検
討されたものです。この「中間まとめ」から、関連部分を以下に抜粋します。
【 全文については http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2002/021004a.htm を参照して下さい 】

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【 追 記 】
2003年3月28日付けで「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」が公表されました。大筋では「中間報告」の内容を踏襲したものとなっています。 全文及び議事録要旨は以下のサイトから閲覧できます。 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/index.htm

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LD、ADHD、高機能自閉症のある通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への教育的対応は緊急かつ重要な課題となってきている。こうした児童生徒が学級にいる場合、担任教員の理解や経験または学校内での協力体制が十分でないこと等から適切な対応ができない、また、時には、学級としてうまく機能しない状況に至る事例もある。
これらの児童生徒は多様な障害の状態像を示すことがあり、その状態に応じて情緒障害、言語障害等の通級指導教室や特殊学級において教育を受けている状況はあるが、総合的、体系的な対応はなされてこなかった。

LDについては、通級指導教室に関する調査研究協力者会議の報告(平成4年)で初めてその対応についての検討の必要性が取り上げられ、LDに関する調査研究協力者会議の報告(平成11年7月)により、その定義、判断基準、実態把握基準(試案)、指導の方法などが示された。また、平成12年度から、LDのある児童生徒に対する指導体制の充実事業が全国で展開されてきており、同会議の示した定義、判断基準、実態把握基準等の検証や学校における適切な指導体制の整備に向けて取り組んでいる。具体的には、小・中学校に校内委員会を設置し学校における実態把握を行うとともに、教育委員会に置かれる専門家チームの意見を踏まえてLDの判断や適切な教育的対応を決定するほか、専門家による巡回指導の有効性の検証を行ってきている。
しかしながら、ADHD、高機能自閉症等については、定義や判断基準が明確になっていないこと等から学校における適切な対応が行われてこなかった。

LD、ADHD等の児童生徒数は、現在の特殊教育の対象者の割合(義務教育段階で約1.4%)に比べて多く6%程度と考えられること、また、特定の学習面で著しい困難を示すLDと、行動面で困難を示すADHDや高機能自閉症とを併せもつ児童生徒がいること、LD、ADHD等については指導内容や指導上配慮すべき点について類似する点も少なくないことから個々の障害毎にではなく総合的に対処することが効率的な場合も考えられることから、これらの実態を踏まえて効果的かつ効率的に対応することが求められる。
本調査研究協力者会議では、ADHDや高機能自閉症について、別添資料にあるように定義と判断基準(試案)、学校における実態把握のための観点、指導方法等について作業部会を設置して検討してきた。今後は、同作業部会のとりまとめた内容が実際に学校教育の場で効果的に活用できるよう検証するとともに、学校における適切な指導体制を早急に構築する必要がある。国においては、上述のLDへの指導体制の充実事業を通じて整備を進めている支援体制を拡充し、ADHDや高機能自閉症をも含めた総合的な支援体制の確立に向けて取り組むことが必要である。

ADHDや高機能自閉症は、近年、その対応の重要性が認識されてきている新しい障害であることから、管理職を含む教職員や保護者等への幅広い理解の推進が必要である。

また、LDとともに、ADHDや高機能自閉症といった通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒に関わる教職員の養成や研修を、国立特殊教育総合研究所や都道府県等の教育センター等において積極的に行う必要がある。

ADHDや高機能自閉症等は、個々の児童生徒により多様な状態を示すことがあり、例えば、ADHDの児童生徒が同時に高機能自閉症と判断されたり、同時にLDと判断されることもある。このため、これらの児童生徒の教育的ニーズは多岐に渡ることもあることから、国立特殊教育総合研究所においては、当該児童生徒への具体的な指導方法の実践的な研究を引き続き進めるとともに、これまでの研究成果や実践事例を取りまとめ活用し易いものにするなど、学校や都道府県の教育センター等に対して的確に情報提供することが必要である。

LD、ADHD等について、さらに幼児期からの支援を進めるためには、幼稚園全体で支援しあえるような体制を整備したり、日頃から保護者への理解推進を進めていくような研修等の充実が必要である。また、幼稚園と比べて保育園の在籍幼児数が多い実情を踏まえれば、障害に対応した適切な教育的対応を考えていく上で保育園の役割を軽視することはできない。保育園においても幼稚園と同様の視点から取り組むことが期待され、また、小学校や盲・聾・養護学校の小学部において幼稚園や保育園と日頃からの情報交換を行うことが就学後に児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した教育を行う上で重要と考えられる。

親の会やNPOの中にはLD、ADHD等の理解の促進等を目的に活発に活動を行っているものがある。こうした草の根的な活動は、教育の充実や効果的な展開を図る上で、重要な役割を果たしうるものと考えられることから、親の会等との連携も図りながら取組みを行うことも重要なことと考えられる。
また、中学校を卒業した後は、高等学校へ進学する生徒も多いことから、LDやADHD等へ対応した特別な支援体制を構築することや、研修などを通じて理解推進を進めることが期待される。また、都道府県等の教育委員会に設置された専門家チームが、必要に応じて高等学校への支援を行なうことについて検討する必要がある。さらに、養護学校高等部との連携も重要である。

高等教育段階においても、障害に応じた配慮が各学校においてなされつつあるが、大学で学ぶLD、ADHD等の学生についても、支援の在り方についての研究を進めるとともに、様々な機会を通して大学関係者の理解の促進が図られることが重要である。