うつ病の問題解決療法

脳卒中後のうつ病の予防
Prevention of Poststroke Depression
2008 May 29

臨床的うつ病(大うつ病または小うつ病)は脳卒中後の患者の約40%が罹患し、脳卒中後に大きな機能障害をもたらす一因となっている。脳卒中後のうつ病を予防するための抗うつ薬の利益については、これまでの研究ではさまざまな結果が示されている。

脳卒中後うつ病の予防的介入に関するこの多施設共同研究は、登録までの3ヵ月以内に脳卒中(大部分はテント上の虚血性脳卒中)を発症した患者176人(平均年齢64歳)を対象とした。うつ病あるいは他の大きな慢性または機能障害性疾患を有する患者は除外された。患者をescitalopram(1日5~10mg、盲検)、問題解決療法(非盲検)またはプラセボにランダムに割り付け、1年間にわたり3ヵ月ごとに体系化した診断的面接を行った。最初登録された患者176人のうち、149人が治療を開始し、134人が研究を完了した。(年齢、性別、うつ病の重症度および気分障害の病歴で調節した)intention-to-treat分析では、臨床的うつ病(大うつ病または小うつ病)を発症するリスクは、問題解決療法群(12%)またはescitalopram群(9%)より、プラセボ群(22%)で有意に高かった。有害事象に有意差は認められなかった。

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ここで「問題解決療法」を取り上げている。
本で勉強するとすれば、

「うつ病の問題解決療法」
●認知行動論から多元的なうつ病モデルを提起した治療法

目次●

序論
第Ⅰ部うつ病についての問題解決療法からの理論化―その理論と研究
うつ病の症状論,診断,アセスメントおよび現在のうつ病の認知行動理論について
問題解決,社会的コンピテンスと精神保健
問題解決からみたうつ病
問題解決法の構成要因とその過程―うつ病との関連性およびうつ病の認知行動論
問題解決とうつ病:モデルの実験的背景
第Ⅱ部うつ病のための問題解決療法―臨床のための手引き
一般的な臨床的考察
問題志向訓練
問題の定義と公式化の訓練
さまざまな問題解決法の案出訓練
意志決定の訓練
問題解決法の実行と検証の練習
第Ⅲ部結論
結びの言葉
付録
監訳者あとがき
索引

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もう一冊挙げる。
「問題解決療法―臨床的介入への社会的コンピテンス・アプローチ 」
第1部で臨床的介入と予防への問題解決アプローチの理論的基盤を紹介し。
第2部ではストレスへの対処プログラムを提示し、PST(問題解決療法)がストレス管理にとって有効であることを示す。さらに問題解決モデルを用いた詳細な事例検討により、さまざまな疾患(全般的不安、抑うち、強迫性障害、神経障害)への治療的アプローチを解説している。

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単純化して言えば、
1.解決すべき問題は何か、明確にする。
2.あらゆる可能性を検討する。
3.ベストを選択する。
4.実行して検証し、1-3を繰り返す。
トライアルアンドエラーと脳内のシミュレーションを改めて意識して行なう技法。

紹介記事によれば、
T.J.ズリラやA.M.ネズらによって体系化された治療法で、
①何が問題になっているかを明らかにする段階、
②問題を評価する段階、
③多様な問題解決方法の検討、
④実現可能な解決方法を探索する段階、
⑤問題解決方法を実行、効果を確認する段階
の5つの段階を経て、
クライエントが自分自身で問題解決できるという自己効力感を増大させ、
問題解決をセルフコントロールできるように指導していく。

という、しごく当たり前なことを行なうものである。
これ以外に考えようがあるかといえば、
たとえば、
神の啓示に従うとか、
占いに従うとか、
集団の言い伝えに従うとか、
年長者の意見に従うとか、
どうしようもないものばかりで、
理性と経験が教えるものに従うなら、
この手順しかないだろうと思う。

そして理性と経験に従わない人々は実に多く存在するものである。
だからこのような療法の存在価値がある。

さて、現実には、「自分自身で問題解決できるという自己効力感」を育てない限りは、
医者の指示に従えば間違いないというパターナリズムになるのだが、
そうならないように注意はするものの、
現実には、医者は自分の意見に従えば「理性的な自己決定」と思うものだし、
自分の意見に反して決定すれば、「不合理で未熟な結論」と思う傾向がある。
これは原理的に仕方のないことで、
医者はもっとも合理的でエビデンスのある結論と信じるものを患者に提示するのであって、
それ以外の選択は理性の範囲内ではありえないと思っているのだ。
患者が別の選択をしようとした時に、
自信を持ってそれは非合理的だと論破できる程度に医師は考え抜いているはずなのである。
だとすれば、患者は医師の意見に従うしか選択はないのだが、
その場合に充分に納得して同意して選択したとして、
それが本当に患者の意思と言えるのかどうか、
かなり微妙なことになってくる。

問題解決療法は
人間が無意識のうちに行なっている合理的な問題解決プロセスを
顕在的にして意識的に行なおうとするものであるが、
医師は中立的な情報提供に徹することになる。
それが実は難しい。

合理的判断とは何か、一般的な次元で伝えたいわけだが、
一般化して伝えているつもりでも、
ここでの治療選択という限定された問題の直接の答えを暗示し誘導していることになるのであって、
原理的に難しいものだと思う。