不安を解消する

“不安”と“恐怖”を明確にして、不安を解消する
落ち込んだ時や不安を感じたときに行うセルフカウンセリング。何が不安の原因なのかを明確にするだけで解決する場合も多いものです。今回は、“不安”とはいったい何なのかを考えてみます。

 前回は「1人でできるセルフカウンセリング」ということで、まずネガティブな感情を特定し(ステップ1)、4W1Hで具体的な出来事を思い出し(ステップ2)、不安を明確にすることでスッキリする方法を紹介しました。

 今回はステップ3に入る前に、“不安”と“恐怖”の違いについて考えてみます。

対象がはっきりしていると“恐怖”、はっきりしないと“不安”
 例えば、こんな場合もあるでしょう。

 先週くらいから、気持ちが不安定で心配だ。具体的にいつぐらいからかな。先週の土曜日くらい。何をしていたか。女房と話しているときだ。

 もっと具体的に、4W1Hで思い出します。

 土曜日の午後に女房とスターバックスに行って、楽しく話をしていたんだけど、その後からだ。その後、家に帰って貯金通帳を見せられて、「給料がこの感じだと、ローンがキツイと思うんだけど」みたいに言われた。「あなた、7年後にこれだけ貯まるって言ってたのに、私が計算してみたら無理よ」と言われた。あのあたりから気持ちが滅入ってきている。

10分でできる簡易セルフカウンセリング
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「あのときに戻れるとしたら」どうする?
“不安”と“恐怖”を明確にして、不安を解消する
1人で行う、自分へのカウンセリング法 そこで、「感情」「思考」「行動」「結末」です。

どう感じたか? 「うわッ、とがっかりした。申し訳ないと思った。自分の計算が違っていたのか、ちょっとヤバイなと思った」
行動は? 「いいよ、そんなの別に気にしなくても、みたいに女房に言っちゃった」
結末は? 「女房は余計カチンとしてプリプリしていた」
 あのあたりから不安なのだと、それに気がつくだけで落ち着く人と、やっぱりこれはちょっとマズイと思い、何ができるかを考えてアクションを起こす場合とがあります。この場合だと、実際に計算をしてみるべきですね。今の給料や経費から、7年間でいくらくらい必要かを計算して、おおよその予算を出してみて、だいたいどれくらい残るかをはっきりさせます。すると、たとえその金額が思ったほど多くなくても、人間は安心するものです。「あ、そうか。これだけしかないんだ」と思っても、はっきりすると落ち着きます。

 恐怖と不安の違いは、対象がはっきりしているか、していないかです。対象がはっきりしないときに不安になります。恐怖は対象がはっきりしているときの感情です。借金取りが来ると分かっていたら恐怖だし、あの社長が来ると分かっていたら恐怖です。

 不安は、分からないから不安になるのです。いくらかかるか、分からないと不安になるので、いくらでお金が尽きると分かったときは、不安は減ります。そして、それに対して、ちょっと交際費を削ろうとか、もう少し給料を上げるようにがんばろうなどと対策を取ればいいのです。

 漠然としているから不安なんですね。将来の経済的な不安を感じるとよくいいますけれど、実際に計算してみればいいのです。自分のだいたいの生涯の収入を計算します。あと30年間働き、余生が20年間。給料を単純に計算し、60歳まで働いたら退職金がいくらで、年金はひどく低く見積もってこれくらいで、と全部書き出してみてください。そうすると、不安は減るはずです。

 そして大抵の場合、金額は不安に思うほど低くないはずですよ。低かったとしたら、タバコを減らそうかなとか、こういう無駄遣いは止めようとか、無駄に飲むのは止めよう、などと対策を考えるでしょう。

治療者 何か、不安に感じていること、気が滅入っていることがありますか?

A 僕は長期で休みを取っているときなど、何をする気にもなれずに、むなしく感じるときがあります。

治療者 休んでいるとき?

A はい。この土日もありましたね。

治療者 今、この会話はステップ1です。ネガティブな感情を特定しましたね。では、ステップ2。それを感じ始めた具体的な場面や出来事を特定していきます。いつくらいですか?

A 先週の日曜日です。

治療者 朝、起きたときから、そんな気分でしたか?

A 夕方くらいです。

治療者 朝、起きたときは普通の気分でしたね。その後、何をしましたか? ご飯を食べたとか、掃除をしたとか……

A ご飯は食べたのかな。で、本を読んだり、テレビを見たり、細々と何かをやろうとするんですが、全然集中できなくて、すぐ止めてしまうんですよね。

治療者 そのあたりから、むなしさは感じていましたか? それとも、まだないですか?

A そのあたりが、まさにむなしい気持ちです。

治療者 じゃあ、朝からですね。


 ここではまず、気になる感情を1つ特定して、その特定した感情を感じ始めた場面をありありと思い出しています。大事なのは、何月何日の何時くらいから、と具体的に特定することです。

 コツは、「だいたい先週の水曜日」とか「だいたい20日くらい」と分かったら、その日の朝からの出来事を聞く(問いかける)ことです。朝、何時に起きて、そのときの気分はどうだったか、から聞くのです。朝は普通だったとなったら、むなしさを感じ始めたのは、朝以降ということになります。要するに、感情がピュンと出てくる瞬間を捕まえたいわけです。Aさんは最初に、むなしさを感じたのは「夕方くらいです」とおっしゃっていたんですが、よく思い出すとお昼くらいから感じていましたね。ここは見過ごしてやすい部分です。

 朝、起きたときどうだったかと問いかけて、朝起きたときから、もうむなしい気持ちだったのなら、今度は前日から思い出してください。朝からむなしさを感じていたのだったら、「前の晩、何をしていたか?」と問いかけます。例えば、「前の晩、飲みに行っていた」。そのときの気分は? 「最初は結構良かったけれど……」となると、その飲み始めてから寝るまでのどこかで、ピュンとむなしさを感じた瞬間が来ます。そこをつかんでほしいのです。これを掴めるかどうかが、すごく重要です。

 実は、これを自分でつかめるようになったら、ほとんどカウンセリングは必要なくなります。落ち込まない人間はいません。私も落ち込んだり不安になったりします。ただ、私はどこで落ち込んだかをパッと捕まえられるから、すぐ抜けられるのです。

治療者 では、そのときをありありと思い出してください。「感情」「思考」「行動」「結末」を問いかけていきます。朝、起きた瞬間は平気でした? 起きて、まっさきに何をしましたか?

A 起きて、顔を洗って、トイレに行って……。

治療者 そのときは? むなしいと思いましたか?

A いえ何も。普通でした。

治療者 トイレのあとは?

A ご飯を食べたのかな。

治療者 そのときの気分は?

A 普通でしたね。

治療者 ご飯を食べた後、どうしましたか?

A ご飯を食べた後、ベランダに行ってタバコを吸って、そのへんにあった本を取って、本を読み始めました。

治療者 そのときの感情は?

A う~ん……特にそのときはどうということはなかったですが、本があまり面白くなくて、数ページ読んで閉じちゃいました。じゃあテレビでも見ようか、みたいになって、テレビの前に行って、つけて、でも面白くなくて。

治療者 そのときの感情は?

A だんだんと「何をやっているんだろう、オレは」みたいな感じ。

治療者 そのとき、何を考えていました? 本もつまらない、テレビもつまらないで。

A 「今日は何をやってもつまらないなあ」みたいな感じです。

気持ちと考えを分けて考えよう治療者 「今日はつまらない」と思いながら、気持ちはどんなでしたか?

A 「何をやっているんだろう、僕は」という感じ。

治療者 それは“考え”ですね。気持ちは? 落ち込むのか、イライラするのか、むなしいのか。

A すごくむなしい感じです。

治療者 で、どうしました?

A で、「買い物に行こう!」と思い立って、玄関を開けて、近くのスーパーまで買い物に行ったんですが……。

治療者 行って、どう感じました?

A 「いろいろ買うものはあるなあ、楽しそうだなあ」と思ったんですが……

治療者 ですが、結末は?

A 買うとなったら、欲しいものもなく……。

治療者 なくて、どう感じました?

A 「何をしに、ここに来たんだろう」と。

治療者 「何をしに、ここに来たんだろう」と考えて、どういう行動を取りました?

A 家に帰りました(笑)

治療者 帰るとき、どんな気持ちで帰りました?

A 「オレは何をしているんだ、今日」

治療者 気持ちでいうと?

A まさに「むなしい。やりがいがない」という気持ちです

治療者 で、どうしました?

A 今度はパソコンでWebでも見ようと思って。でも、やっぱり読んでもつまらないんですよね。

治療者 読んでいて、どんな気持ちですか?

A 「また時間を無駄にしちゃったなあ」と。

治療者 「無駄にしちゃったなあ」と“考えた”。気持ちは? 落ち込んだのか、腹が立ったのか、イライラしたか、がっかりしたか、むなしいか。

A がっかりとむなしいの間くらいですね。ふがいない、かな。

治療者 ふがいない。そしてパソコンの後、どうしました?

A その日は結局寝ちゃいましたね。「何をやってたんだろう、オレは」と思いつつ。

治療者 「何をやっていたんだろうと思いながら」そういう結末だったという1日ですね。

A はい。たまに、そうなるんです。

治療者 以上のように、「思考」「感情」「行動」「結末」を行き来して振り返りました。今のように明確化してみて、どんな気持ちですか?

A すごく集中できることがあると楽しいみたいですね。集中するとむなしさは感じないようです。

治療者 なるほど、集中できることだと。

 このように、ネガティブ感情を特定して、出来事を特定し、感情、思考、行動、結末を明確にしました。その結果、集中できるとむなしさは感じないようだ、という気づきが得られました。

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