司会.老化との関連はいかがでしょうか。
PEY.そうですね、MADの各成分が減少します。したがって躁も躁になりきらず、強迫も強迫になりきらず、うつだけは慢性のうつになる可能性がある、といったところでしょう。各細胞の減少から推定できます。
司会.各個人で、どのような性格の形をしているかで、それぞれの病型に違いが出てくるようですが、数字で、MADの程度を表現する、または測定することはできますか。
PEY.それは今後の課題ですが、やはり、このように、神経回路の場所を無視して、全体に分布する細胞特性に着目するというのは、特殊な発想だと思います。やはり普通は、どこの神経回路が壊れているのかと思うわけですから。
しかしそれだと、うつ病の、広汎な症状に見合わない気がします。全身を巻き込んだ何かで、生きる力そのものを根こそぎ停止させてしまうようなところがある。これは部分の問題ではなく、もっと全体の問題と発想して、こんなモデルを作ってみたわけです。
このMADモデルを使うと、「頑張りすぎたあとにうつになる、しばらく休んでいればいい、自殺だけしないように、大きな人生の決断を待つように」というあたりはぴったり説明できます。
司会.治療としては、いまの細胞分布、つまり性格のままで、運用を工夫するという面をいまお話されましたが、細胞分布、つまり性格を変えるという可能性はありますか?
PEY.外科的な事を考えているならそれは無理でしょう。マニーが過ぎる人、強迫性障害が過ぎる人に何か考えられないこともないですが、なにしろモデルは脳全体のびまん性の話ですから、どこを切ったらいいのか分かりません。
むしろ、薬剤で、脳全体にブレーキを利かせておくのは、理論にかないます。
その場合、MAが焼ききれるまで頑張るのを防ぐことが第一です。「頑張りがきく体質」ではなく、「頑張りを分散させる体質」に変える事です。その意味で、頑張りの上限を設定する薬剤が保護的に作用すると思います。気分安定剤ですね。
もともとてんかんの薬ですから、興奮しすぎるのを予防するわけで、そのことがうつ病発生を予防してくれることは、MAD理論で言えば分かりやすいはずです。
MAが焼ききれるまで頑張るのを防ぐには環境調整も大切です。生活スタイルですね。「仕事がノッテいるから」連日頑張ったり、突貫工事したり、そんな習慣がよくないのです。毎日平均して働き、平均して休み、その日の疲労はその日のうちに睡眠の中で回復する、そんな気分が大切でしょう。
司会.脳神経細胞のMAD分布の特性は生まれつきの他に変化があるでしょうか。
PEY.そうですね、まず何よりも、遺伝的に受け継ぐものだと思います。大喧嘩したりしている親子を見ると、やはり、マニー遺伝子が遺伝していると見えます。
しかしその一方で、副腎皮質ホルモン、性ホルモン、甲状腺ホルモンなどが効くのでしょう。
司会.心がけや精神療法で変化させることはできるでしょうか。
そうですね、心がけはかなり有効です。「仕事を一気に一山で片付けよう」と一ヶ月通して頑張るなどとしないで、「山を三つに分けて、三ヶ月で片付けよう」と考えればいいわけです。
また、「一人で一ヶ月」というのではなくて、「部下に分散して、複数の脳で並行処理する」方式を考えるべきです。完全に独創的な仕事はそうは行きませんが。
精神療法は、主に心理教育になります。理屈を理解していただきます。そのあとは、理論にしたがって、「頑張りすぎ」をチェックして、予防し、がんばりのピークを分散させることです。葛藤で苦しむとしても、「先送りしておくこと」「待てないか考えてみること」「60%でも生きられるのではないか」「雨の日は雨なりに生きること」です。
相手を変えることはできないのですから、工夫して時間を待つことです。
からくりが分かっていれば、こちらが病気にならないですみますから。
司会.なるほど、理論の採用は、心理教育の説明を変えるだけで、
治療の大枠としては変化がないわけですね。
PEY.そうですね。むしろ、心理的な深入りは無用であるという感じです。たったこれだけのことなんですから。ただ、頑張りすぎにならざるを得ない理由というものが、それぞれの家庭にあるものですし、それぞれの人生にあるものです。
それを検討して、なぜそんなも頑張りすぎてしまうのか、精神療法的に取り上げることはいいかもしれません。そこは人間学的なかかわりであり、存在の様式に関わることだと思います。
司会.最近の若年発症、他責型、恐怖症型、身体愁訴型についてはいかがでしょう。
PEY.若年発症は、やはりスキゾフレニーのチェックをしないといけません。スキゾフレニーの病理の一部としてのうつ状態はよく知られています。現代では、スキゾフレニーの軽症化もあり、ほとんどうつ病のように見えるものも増えています。その場合はやはり、病前性格や適応の現状、生育の歴史、エピソードをチェックすることになります。簡単ではありません。時間がかかります。それに、診察室でのそれらの情報をやり取りしている間の、反応特性が重要な情報になります。
他責型は対他配慮の欠如といえるものでしょう。先回りして親切にして他人と関わるという「太陽型」ができなくなって、「後手に回って北風になる」感じでしょう。また、他責型は、被害感が原因になっているケースがあるでしょう。その場合は被害感をまず手当てしなくてはいけません。
恐怖症型については、わたしは、主に「間違った強い学習」理論で考えていますのが、そのようなタイプが一部あると思います。もうひとつは、被害感と関係のある恐怖症ではないでしょうか。
司会.恐怖症について、「間違った強い学習」のお話が出ました。これは次の会の話題となると思います。そのあとは、「時間遅延理論」と続きます。
今日は先生どうもありがとうございました。
PEY.お役に立てれば幸いです。
司会.Smapg-Mozart-Qの用意ができていますので、脳のM細胞の興奮を冷ましていただきたいといと思います。