医療の値段―診療報酬と政治 結城康博著(新赤版989)
    ■著者からのメッセージ
 私たちは「医療の値段」と聞くと何か特別な価格であると考えてはいないでしょうか。不運にも入院してしまうことになり、その費用が高いと実感していても、どこか「仕方がない」と諦めてしまってはいないでしょうか。例えば、たまたま手術を受けた医療機関で個室しかないので、高い差額ベッド料金を支払うことになっても、やむをえないと思ってしまうのではないでしょうか。
もっとも、急性期の病で短期間に完治すれば大きな問題とはなりません。しかし、脳梗塞などで高齢者が倒れ家庭環境で在宅療養ができず、何年も療養型医療施設に入院せざるをえなくなった場合、毎月20万円以上の入院費を支払う家庭が少なくはありません。
 それでも自分たちの生活を切り詰めて、毎月20万円以上の費用を工面している家族を、僕は仕事柄いくつも目の当たりにしてきました。その中で、「医療の値段」はどのように決まっているのかという疑問を抱き、その決定プロセスを紐解いてみようかと思い本書を手がけることになりました。   
  
■目次
  序 章  病気を治すのにいくらかかる    
1 実際の治療費はいくらなのか  
  窓口で支払う医療の値段/医療は財か  
2 医療と政治  
  医療と利益団体のイメージ/医療の値段を浸透させる  
3 本書の構成  
     
  第一章  医療の値段の決められ方    
1 診療報酬と審議会制度  
  診療報酬とは/診療報酬で医療の在り方が変わる/医療の値段を決める審議会(中医協)/医療の値段は二年に一度見直される/中医協改革  
2 専門家集団で決められる医療の値段  
  中医協の構成メンバー/中医協の組織構成/医療系学会の影響力  
      
  第二章  利益団体と医療―医療費をめぐる政治史(1)    
1 日本医師会と日本歯科医師会  
  日本医師会/日本歯科医師会/その他の医療関連団体  
2 利益団体と政治活動  
  日本医師連盟/日本歯科医師連盟/日医連及び日歯連の会員問題  
3 壮烈なライバル意識  
  三師会について/日医と日歯の対立/患者数と収入格差  
      
  第三章  医師会と医療費―医療費をめぐる政治史(2)    
1  政界と太いパイプを築いた武見体制  
  武見太郎とは/武見と政界/医師会会長選挙/武見日医の功罪  
2  武見日医と対立した団体  
  武見日医と日本病院会/武見戦術の数々  
3  武見日医から学ぶもの  
  社会情勢を見極めた力/患者の代弁者機能 
      
  第四章  かかりつけ医制度と医療費    
1 かかりつけ医制度  
  かかりつけ医制度の意味/在宅医療の拡充  
2 入院医療と在宅医療 
  入院医療の見直し/アメリカとイギリスの影響  
3 史上はじめてのマイナス改定  
  小泉内閣による二〇〇二年医療制度改革/在宅部門における医療の値段/医療サービスをどう提供していくか/二〇〇六年診療報酬改定 
      
  第五章  「医療の値段」と政治―日歯連事件からの検証    
1 贈収賄事件はどうして起きたか  
  かかりつけ歯科医初診料/臼田貞夫の登場/日歯連事件の概要  
2 自民党と日歯連  
  日歯連による政治献金/マスコミを賑わす旧橋本派/民主党の動き/高まらない世論  
3 事件の意味と影響  
  医療業界と利益団体/「医療の値段」の決定プロセスが注目される 
     
  終 章  公正な医療の値段とは何か    
1 医療の値段の決め方はどう変わるか  
  連合の取り組み/日歯の取り組み/中医協は変わるのか  
2 高度化した医療技術と混合診療  
  医療技術は高度化する?/混合診療について  
3 これからの医療制度  
  膨張する国民医療費/医療制度改革の論点 
4 市民にわかりやすく 
  医療の値段と消費者感覚 
      
  あとがき
参考文献
   
  ■岩波新書にはこんな本もあります   
介護保険 地域格差を考える 中井清美著 新赤版820 
定常型社会―新しい「豊かさ」の構想 広井良典著 新赤版733 
日本の社会保障 広井良典著 新赤版598 
高齢者医療と福祉
岡本祐三著 新赤版456 
政治献金―実態と論理 古賀純一郎著 新赤版889 
 
*****
武見太郎とか医師会とか書けば、一般の人には受けるのだろう。
でも、問題はそんなところにはない。
武見太郎の子息である武見敬三は選挙で落選。
医師会も落日である。
根本的には、医学・医療が進歩して、いろいろなことができるようになったが、
お金もかかるようになった。
しかも、お金をかけた最先端医療だからといって、人間の体だから、絶対という保障はない。
むしろ、最先端であるだけ、予測不能の危険要因が大きい。
専門家と一般の人の理解には大きな差がある。
そんな中でどのようにして納得してもらい、最善の医療を実践することができるのか。
実際、最善の選択は何かが、難しいのだ。
命の値段をどう決める?と問題にされると、
フリーマーケットで決めてくださいというしか、答えはないだろう。
リバタリアンのいうように、政府が値段を決めれば、矛盾続出で、腐敗も起こる。
無駄が多い。非効率である。他の方式も、いずれにしても悪い中で、
フリーマーケットが、ほどほどのよい答えであるということになる。
それでいいはずはないのだが、いい考えはあるだろうか。
 
  
  
  
  