高学歴者では認知症の発症は遅いが進行は速い

高学歴者では認知症の発症は遅いが進行は速い 
 
   高等教育を受けた人では認知症の発症は遅いものの、いったん認知力の低下が始まると急激に進行することが新しい研究で判明した。この研究は米アルバート・アインシュタイン医科大学(ニューヨーク)のCharles B. Hall氏らによるもので、米医学誌「Neurology」10月23日号に掲載された。


 学歴の高い人は、脳に「予備力」があるために認知症の病変に長い期間耐えることができるが、疾患の進行がこの予備力を上回ると、その後の精神機能の低下は加速されるとする、いわゆる「認知的予備力(cognitive reserve)仮説」がこの研究によって裏付けられたといえるという。


 Hall氏らは、この仮説を検討するために、認知症を発症した患者117人を平均6年間追跡し、1年ごとに認知力を評価。被験者の学歴は、小学校3年間未満から大学院まで幅があった。教育を受けた期間が1年増えるごとに、認知症による急速な記憶力低下が始まるのが約2カ月半遅かったが、いったん低下が始まると、教育期間が1年増えるごとに、認知力の低下する速度が4%速くなることが明らかになった。


 Hall氏によると、現時点ではアルツハイマー病の有効な治療法がないため、この研究の実用的意義は限られているという。しかし、認知症の症状の現れ方には極めてばらつきがあることを医師は知っておく必要があり、特に高齢者のケアを担う立場にある人(家族、介護者、医師など)は、学歴の高い人では認知症が予想以上の速度で進行する可能性を認識しておく必要があると指摘している。


 また、認知症状が現れたときには、すでに脳の相当範囲が病変に侵されているケースがある。このため、仮に認知症の自然経過を変えることのできる治療法が見つかったとしても、症状が出るまで待っていては、特に高学歴の人では、治療が間に合わない可能性もあるという。認知症の発症を示すさまざまな生物学的マーカーの発見に多くの人が取り組んでおり、このような研究を継続することが重要だとHall氏は述べている。