司会.今日は東京大学名誉教授、山内昭雄先生をお迎えしまして、高校生向けに、うつ病のお話をしていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
山内.理論は空です。癒すのは人格です。話すことは本当はなにもないのです。
司会.いえいえ、いつもの謙抑には恐れ入ります。あとでモーツァルトの弦楽四重奏曲を生演奏してくださるとのことで、高校生の方々がお待ちです。
山内.最近は少しばかり思うところを。短時間だけ。
司会.ではどうぞ。Professors emeritus Yamauchi.
ドイツ語ならProfessor emeritiert Yamauchi.PEYと略称して記載します。
PEY.いま紹介にあずかりました山内でございます。今日は皆さんの勉強の進み具合も分からないので、まったくの基礎からということにいたします。
うつ病は脳の病気だということはご存知ですね。
脳というのは、頭蓋骨の中にあるもので、こういうものです。
脳だけを示すと、これです。色はもっと白っぽい感じ。
ざっくり部分に分けるとこんな感じ。
いろんな動物に脳があります。
見ただけでは、何をしているのかよく分かりません。
しかし、脳のある部分をピストルで傷つけられたり、
脳腫瘍で細胞をとってしまったりした後で、
どんな症状が出るかを調べると、
どの部分がどんな機能に関わっているのか、
おおよそ分かってきます。
優位半球というのは、
利き腕を支配している半球のことで、
右利きの人なら、左半球ですね。
交差しています。
おもしろいですね、どうして交差しているのでしょう。
右半球と左半球と二つあるのはどうしてなのか、
これは猫でもマウスでもありますから、
どうしてなのか、何の役に立っているのか、
よく分かりません。
でも、肺も腎臓も二つありまして、
むしろそのほうが自然ですね。
心臓や肝臓がひとつだけだということが、不思議なくらいです。
ひとつだけあるとすれば、左右が融合して、真ん中にあるはずで、
心臓や肺は、真ん中あたりにできて、内蔵全体が回転したわけです。
司会.なるほどそれで対称性が崩れているわけですか。
PEY.そうですね。しかし脳は、形は左右対称ですが、機能は左右対称ではありません。左右対称に似たところもあります。そのあたりはまたあとで考えてみましょう。
さて、この脳というものは、なんでできているのか、どのような仕組みになっているのか、知りたいと思いますね。手で触っていても、お豆腐のようなもので、よく分かりません。そこで、顕微鏡で見ます。見えやすいように、染色します。電子顕微鏡で見るときは、凍結させてそれを割ったりします。すると、脳は神経細胞でできていることが分かります。
ここでは染色して見やすくした神経細胞を示しましょう。
脳は脳神経細胞からできています。情報を伝達したり、計算したりするわけです。
そのほかに、神経細胞に栄養を補給したり、傷つけられた細胞を修復したりしたり、髄鞘(ずいしょう)といわれる神経細胞の軸索(じくさく)の周りを包んでいる絶縁体を作る細胞があります。
樹状突起というほうから情報が入力されて、
内部で処理されて、
つまり、細胞の中で、こっちの情報のほうが大事だ優先だとか、
この二つの情報が来たから、反応はこうしようとか、
あの情報の後でこの情報が来たから、無視しようとか、
そんな「判断」や「処理」みたいなことが起こります。
処理された信号が軸索方向に伝達されます。
軸索の最後は、別の神経細胞の樹状突起に接していて、
そこに微妙な隙間があって、シナプス間隙といいます。
シナプス間隙を神経伝達細胞の、
セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン、GABAなど、いろいろな物質がつないでいるわけです。
下は小脳の図で、かなり研究が進んでいます。
いつものように自動車に乗り、急ブレーキをかけたりしているのも、この部分です。
司会.どうして直接電気信号でつながないのですか?そのような生物のほうが能率がいいのではないでしょうか。そもそもそうなれば、シナプス部の異変として考えられている病気がなくなるわけですね。
PEY.まあ、そうかもしれませんね。
司会.あ、分かりました。病気があったとしても、シナプスがあったほうが、もっと利益があるんですね。
PET.結局、このような神経細胞を混み合わせて、現在の脳の機能が全部説明できるだろうという説と、そんなことはとてもできない、神経細胞は単に神経細胞で、どのように集めても組み合わせても、自意識や道徳意識、信仰の意識が発生するとは思えないとする説まで、いろいろです。こんな細胞を階層的に組み合わせ、脳の機能を発生できないか、コンピュータ関係の人たちはトライしています。かなりの成果もあるようです。
司会.ちょうど時間となりましたので、休憩を挟んで続けたいと思います。