メンタルヘルスを経営課題としてとらえよ

「メンタルヘルスを経営課題としてとらえよ」、『SEのためのうつ回避マニュアル』

IT(情報技術)産業や一般企業のシステム部門では、うつにかかる社員が多いのでしょうか。

荻原:これまでたくさんの企業に対し、心の病の予防や早期発見などのためのEAP(Employee Assistant Program=従業員支援プログラム)サービスを提供してきました。また、全国でカウンセリングルームを展開しているので個人のお客様の悩みもうかがっています。そうした中でとりわけIT、通信の分野でメンタルヘルス不全が顕在化していると感じています。SE(システムエンジニア)などITエンジニアの働き方や職場に様々な問題が含まれているからでしょう。

 長時間労働が常態化していますし、同僚とのコミュニケーションの頻度もほかの職場と比べて少なく、パソコン漬けになりやすい。加えて、SEにはうつになりやすい性格の人も多い印象を受けています。0か1かという、デジタル的に物事をとらえる「白黒」思考や、生真面目さ、責任感の強さは、一方で柔軟性の欠如につながりやすいので、ストレスがたまるのです。

 ただし、日本社会がどんどんIT化しているので、職場のストレスやうつはホワイトカラー全般に通じます。多くの日本企業に共通する、中途半端な形での成果主義の導入も原因の1つだと考えられます。そもそも完璧な成果主義というのは難しいでしょうが、「1年以上かかる大型案件に取り組んでいるのに、半年後ごとに成果を評価される」という不満を打ち明ける人もいます。

うつやメンタルヘルスの不全が多くの職場で起きやすいものだとすれば、個人ではどういった対策が考えられるでしょうか。

 早期発見が一番のキーになります。進行してからでは回復にも時間がかかりますから。普段から自分の健康状態だけではなく、思考のパターンや癖に気づいておくことが大事です。そしてメンタル面で不調になったと感じたときに備えて、自分なりの解消法を複数持っておく。本でもいくつか紹介しましたが、心の状態をチェックしたり、ストレスに対処する方法はたくさんあります。まずは自分自身について客観的に知ることです。現状では、体に異変が生じて初めて自分の心が病んでいると気づく人が多いからです。

 部下や同僚が不調をきたした場合には、相手のつらさを受け止めて認めてあげることです。悩みを一般化したり、「俺なんかね…」と逆に職場の愚痴を言ったりするのはよくありません。メンタルヘルス問題の多くはコミュニケーション不全に原因があります。認識のずれや会話の不足、誤解といった点の解決に当たるべきでしょう。

管理職にはコミュニケーション・スキルを磨くことも求められますね。

 うちの会社でも管理者向け、全社員向けのセルフマネジメントの2つ以外に、対人関係のあつれきを避ける技術として注目されているアサーティブ・コミュニケーション(アサーション)のセミナーを依頼されるケースが増えています。多くの企業でメンタルヘルスに関するセミナーを開いていきましたが、最近では「メンタルヘルスに関する基本的な知識は学んだ。では具体的にどうすれば職場は活性化するのか」というレベルに達しています。

 うつになる社員が多い企業や職場で、長時間残業の解消に取り組む動きがあります。確かに残業とうつは密接なかかわりがありますから間違いではありません。ただ、負担の量と質、コントロールできる度合い、働きがいなどもストレスに関係があります。残業を急に半分にできないのなら、業務フローを分析して着手できるところから改善していくべきです。経営者には社員のメンタルヘルスを重要な経営課題としてとらえてほしいと思いますね。メンタルヘルスの改善は生産性向上につながるのですから、費用対効果まで含めて意識するのは当然です。