誰のための会社にするか ロナルド・ドーア

 誰のための会社にするか ロナルド・ドーア著 (新赤版1025)
   
   新しい会社法に、どのような魂を入れるか。
  アメリカかぶれでない、日本にあった企業制度の提案

 会社とは、いったい何でしょうか。どういう会社なら、健全で働き甲斐を感じることができるのでしょうか。また、どうすれば「理想的な」リーダーを確保できるのでしょうか――。会社法が大幅改正され、堀江氏や村上氏など一世を風靡した時代の寵児たちの逮捕が相次ぐ中で、いま、多くの人が日々働く現場の組織で何が起きているのか、その意味は何なのか、原点から問い直した一冊です。

 長年、日本社会に鋭くも温かい視線を注ぎ続けてきた著者の、日本語による渾身の書き下ろしです。平社員、部長・課長、平取、社外重役、そして社長たち……会社にかかわるすべての方々にお奨めします。

(新書編集部 上田麻里)
    
  ■著者からのメッセージ
 原稿を読んでくれた友人のコメント;「資本主義も、コーポレート・ガバナンスも、『本来の姿なんてない』といっているところが一番痛快だった」と言ってくれました。本の題を「会社は誰のため」などでなくて、『誰のための会社にするか』としたのはまさに、それを強調したかったからです。会社のあり方は――特に、会社が創造する価値(いわゆる付加価値)が、株主と従業員と、銀行と、(税金の形で)国庫の間でどう配分されるかは――政治的選択の問題です。

 と同時に、その社会でどういう思想が「思想的制空権」を握っているか――会社法という仏にどのような魂を入れているか――にもよります。株価維持を世の社長たちの最大関心事にして、“静かなる株主革命”を固めたのは、頻繁に起こり始めた敵対的買収です。むかし、山師の業だった乗っ取りが、「活発なM&A活動」の一環として、紳士も当然使えるビジネス手法となったことです。

 しかし、エルビス・プレズリー宅へお参りまでする総理を始め、アメリカかぶれの政府当局ほど、一般国民の思想はそう変わっていないとおもいます。額に汗を流して働いている人たちが、村上世彰氏の逮捕を見て、手をたたいているのは、彼がうっかりしてインサイダー取引を一回したからではない。彼の日ごろのマネーゲームの儲け方への反発だと思います。それなら、制度を変えればいい。より健全なステークホルダー資本主義への道について、僭越ながら、最後の章でいくつか提案を試みました。
    
  ■著者紹介
ロナルド・ドーア(Ronald Dore)
1925年英国ボーンマス生まれ。戦時中に日本語を習って、1950年に初めて日本に留学した時以来、ロンドン、ブリテイッシュ・コロンビア、サセックス大学開発問題研究所、ハーバード、MITの諸大学で教鞭を取りながら、主として日本の社会経済構造の研究および日本の経済発展史から見た途上国の開発問題の研究に専念してきた。
著書―『日本の農地改革』、『江戸時代の教育』、『学歴社会 新しい文明病』、『イギリスの工場・日本の工場』、『都市の日本人』、『貿易摩擦の社会学』、『日本との対話―不服の諸相』、『日本を問う 日本に問う―続不服の諸相』、『日本型資本主義と市場主義の衝突―日・独対アングロサクソン』、『働くということ』ほか
       
  ■目次
はじめに
  
  第一章 コーポレート・ガバナンス――「治」の時、「乱」の時  
  1 社長追放の諸相
    チェーンソー・ダンラップ/オークマの大隈家/三越の岡田茂社長/二つの解釈
  2 なぜ今、敵対的買収か
    なぜ買収劇が続くのか/M&A促進政策の理論/M&Aの現実/二種類の企業と二種類の経済学  
  
  第二章 グローバル・スタンダードと企業統治の社会的インフラ  
  1 覇権の諸相
    世界普遍な企業形態か/文化的覇権の奇妙な力/覇権文化と覇権国家/より価値中立的な定義/何が問題か
  2 多様性の二つの軸
    国柄/日本は新自由主義に転向したのか/動機付け資源/ありがたい「アメ」と恐ろしい「ムチ」/文化・パーソナリティ・制度
  3 動機付け資源の制度的強化
    社長の座へのさまざまな道/監視と信用/三権分立/「性善説」の国の少数悪への対応 
 
  第三章 どこに改革の必要があったのか  
  1 改革機運はどこから?
  2 自信喪失と重なった要因
    洗脳世代の到来/外資系投資家の日本買い/改革論者の常套句
  3 日本的経営の四つの欠陥
    不祥事/決断力が足りない経営トップ/過剰投資と資本効率/株主の軽視
  4 壊れていなければいじらない方がいい
 
  第四章 組織の変革  
  1 強制された変革・自主的変革
    せわしない法制活動/「親切」な改革/法改正と無関係な組織変革/嘲りの対象となった取締役会
  2 諸変革の普及率
    委員会設置会社の場合/監査役会設置会社の場合
  3 組織の変革・行動の変革
    透明性/社外重役――誰の番犬なのか/助言か“権言”か/緊張感の効能/社外重役の貢献/評価できる面
  4 制度変革の効果
    意思決定の「質」/意思決定のスピードは?/執行と監視/不祥事防止
  5 仏つくって、どの魂を入れるか
 
  第五章 株主パワー  
  1 変わったのは何か
  2 株主パワー――声の部
    大株主――インフォーマルな注意/新しいタイプの「アドバイザー」/投資ファンドの分業/株主還元に「目覚める」ソトー/いまに始まったことではないが/一般株主――株主総会/機関投資家の上陸/国内版株主行動主義/経営層の階級的団結/最近の問題点/市民運動としての株主行動主義/企業の対応
  3 株主パワー――売り逃げの部
    経営者にとっての脅威/株価維持の至上命令/敵対的買収と経営者意識/経営権売買市場の善し悪し
  4 株主天下の確立
    「抵抗勢力」? 
 
  第六章 株主天下の老後問題  
  1 株主はあなた!
    神話(1) 機関投資家が経営者を監視する/神話(2) 「株式市場=機関投資家支配下の市場」/神話(3) 今の貯金は将来の負担を軽減/神話(4) 株式プレミアムは永遠不変
  2 要は惑わされないこと
 
  第七章 ステークホルダー・パワー  
  1 常識の変化
    ステークホルダーとは誰か
  2 「準共同体的企業」の従業員
    どの意味で「準共同体的」なのか/準共同体の融解/分離と格差
  3 労働組合が従業員ステークホルダーの利害代表か

    なぜ労働組合が抵抗しなかったか/労働組合弱体化の諸要因/労働者の声がほとんど聞こえない 
 
  第八章 考え直す機運  
  1 改革派のつまずき
    ホリエモン失脚の効果
  2 CSRブーム
    改革機運後退の第一期/開明的株主価値論/PRかホンモノの倫理観か/投資家の脅し/CSRと従業員
 
  第九章 ステークホルダー企業の可能性  
  1 何が変わったか、変わりつつあるか
    思潮の動向と現実の動向/敵対的買収制度はこのままでいいのか/ポイズン・ピル活用をめぐる議論
  2 ステークホルダー社会の実現に向けて
    M&A審査委員会/株式持ち合い網の再構築
  3 インサイダー経営企業の活性化
    残る「準共同体的企業」のインフラ/社長の報酬開示の当否/内部規制・部下の突き上げ
  4 インサイダー経営者への規制・刺激
    社外重役/内部告発/従業員の経営参加/企業議会の構想/付加価値計算書の作成
 
  おわりに
なぜ急いだ方がいいか/非民主主義的提案の弁解

謝辞
推薦図書一覧

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
独占禁止法―公正な競争のためのルール 村上政博著 新赤版929
経営者の条件 大沢武志著 新赤版907
日本の経済格差―所得と資産から考える 橘木俊詔著 新赤版590
市場主義の終焉―日本経済をどうするのか 佐和隆光著 新赤版692
人間回復の経済学 神野直彦著 新赤版782
 
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会社が変質しつつあることはみんなが感じていて、
人生を展開する場所ではなくなっているような不安を抱いていると思う。

出版社風にいえば、いかにして人間性を回復できるかということなのだけれど、
非人間的な企業のほうが収益が大きくて、
結局人間的勢力が負けてしまうとしたら、どうすればいいか。
今後は、政府が規制をかけて守ってくれるわけでもないのだ。

人間的企業で人間的な働き方をしているほうが、
競争にも勝つ、そのような新しい方程式が成立しないと、
現状は打破できないだろう。

非人間的な安い給料か、
非人間的な労働時間か、
いずれにしても、人間的で優雅に暮らせるユートピアは、
今のところ、存在しない。