病識と病感と無感覚と失認と離人症その周辺

1.病識

自分が病気であるという認識。

1-1.病識が失われる病気

たとえば統合失調症にみられる。

たとえば、隣の奥さんはCIAのスパイだと確信し、その確信を病気の結果だと思わない。

1-2.病識喪失のメカニズム

病気を認識する中枢が壊れる。しかし、自分の病気でないとすれば、隣の奥さんの言動は何なのかと考えて、妄想体系が構築される。

1-3.病識欠如のたとえ

自分を映す鏡の欠如。自分以外の全ては見えるのに、自分の姿は見えない。鏡が欠如している。

あるいは、ゆがんだ鏡を見ている。ゆがんだ像を解釈するために、自分が病気であるという解釈を捨て、外界を妄想的に解釈する。自分の生の感覚は訂正できないからである。

1-4.メタ視点

周囲を観測する視点を普通の視点とすれば、自分を反省的に見るメタ視点が欠如しているといえる。

感覚情報はその人にとって訂正不可能であり、訂正できるのは解釈であるから、結局、解釈が変更されて現実と乖離し妄想形成にいたる。

2.病感

病気であると認識はしないが、疲れている、普段と違う、という程度の感覚はある状態。ある種の内部感覚。

2-1.病感が失われる状態

ある種のうつ病。

「周囲の誰にも、最近疲れているようだし、無理をしないようにといわれる。しかし、自分では、疲れているとは感じないし、休養が必要とも思わない、仕事で成果が出ないのは確かだけれど、それは能力に比較して仕事が難しいからだ。」

2-2.病感欠如の結果

病感があれば、休養をとることができるのだが、病感が欠如しているため、どんなに疲れても、仕事を続ける。その結果、ますます疲れて能率は低下する。結果としてうつ病が悪化する。

病感は、サーモスタットのようなもので、ある種のネガティブ・フィードバック回路である。病感が発生した時点で、これ以上無理してはいけないと感じる。

2-2-1.病感欠如は離人症の部分症状と考えることもできる。

2-3.病感欠如の発見

周囲は容易に気付くし、インタビュー、心理テストで、発見できる。

3.無感覚・感覚欠如

知覚神経障害のため、温痛覚に障害があり、怪我をしても、やけどをしても、気がつかない。傷だらけになり、血まみれになる。

4.これはある種の失認

病識欠如、病感欠如、感覚欠如は、いずれも、自分または他人に被害をもたらす。他人ら被害をもたらしてもなお、自分の考えを訂正できない。これはある種の失認である。

5.疾病否認

これは脳の局所的損傷により生じる。自分には運動麻痺はないと言い張る。

6.家族による疾病否認

これは否認の防衛機制を用いるもの。臨床の場ではこれもなかなか難しい問題。

7.本人による疾病否認

脳梗塞などの局所的器質的疾患が原因でなくても、恐怖感や現実的利益のために、自分の疾病を否認することはよくある。ニコチン依存症の否認。アルコール症の否認。しかしメカニズムとしては否認なので分かり易い。了解可能である。3.のたとえで言えば、やけどするのは痛くていやだけど、それを承知で、やけどしているのである。現実的利益のために。だから了解可能である。