うつ病はどれだけ健康レベルを低下させるか


このような研究が、国家予算をどれだけうつ病研究に回せるか、根拠になるので、重要。
では、内容は?
以下、日経メディカル記事とLancet記事を比較して、以下に論評。

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うつ病はどれだけ健康レベルを低下させるか


WHOの大規模調査結果より






2007. 9. 27




 うつ病は他の身体疾患に比べても健康レベルの低下に大きな影響をもたらしていることが、世界保健機関WHO)の大規模調査で明らかになった。疾病負担を減らすためにも、うつ病対策が公衆衛生上取り組むべき課題の中で優先順位が高いことを示す結果だ。WHOのSaba Moussavi氏らの報告で、詳細はLancet誌2007年9月8日号に掲載された。

 うつ病の有病率は2~15%と報告されている。WHOの推計では、うつ病は2000年には総DALYs (障害調整余命年数)の4.4%を占め、疾病負担の第4位になっていた。非致死的な疾病負担においては、うつ病が占める割合はさらに大きく、総YLDs(障害共存年数)の約12%だった。さらに2020年までに、うつ病は疾病負担の第2位になると予想されている。
 
 著者らは、うつ病が単独で、また併存疾患となっている場合の健康全体に対する影響を明らかにするため、WHO世界保健調査(WHS)のデータを分析した。WHSは18歳以上の成人を対象に、健康状態、健康関連アウトカム、それらの決定要因について面接調査したものだ。対象は世界のすべての地域を網羅する60カ国の24万5404人。

 分析の結果、うつ病と、身体的な慢性疾患(狭心症関節炎喘息糖尿病)の有病率は、単独では糖尿病が最も低く2.0%、うつ病が3.2%。喘息3.3%、関節炎4.1%、狭心症が4.5%だった。慢性身体疾患とうつ病が併存する患者を調べたところ、喘息患者におけるうつ病併存率が最も高く18.1%だった。そのほか糖尿病患者の9.3%、関節炎患者の10.7%、狭心症患者の15.0%がうつ病だった。

 なお、対象者の7.1%は2つ以上の慢性身体疾患を抱えており、うち23%がうつ病もあった。このように、身体疾患がある患者のうつ病有病率は、身体疾患がない患者(うつ病単独は3.2%)より有意に高かった(P<0.0001)。


 質問に対する回答に基づいて0~100ポイントで示した健康スコアの平均は、疾患を持たない人々が90.6ポイントであるのに対し、喘息のみ80.3、狭心症のみ79.6、関節炎のみ79.3、糖尿病のみ78.9、うつ病のみ72.9となった。うつ病と関節炎が併存する患者では67.1、うつ病と狭心症では65.8、うつ病と喘息で65.4、うつ病と糖尿病は58.5。慢性身体疾患が2つ以上の場合には71.8、それらにうつ病が加わると56.1で、うつ病併存は健康状態を有意に低下させていた(P<0.0001)。この結果は、年齢、性別、社会人口学的特性、その他で調整しても維持された。

 回帰モデルを用いて、全体的な健康と個々の独立変数(病気、社会人口学的特性、経済状態、結婚状態など)の関係を調べた。健康状態が低いことと関係していたのは、女性、高齢、低学歴、低所得、失業など。病気の影響は、人口統計学特性に比べ大きく、特にうつ病は、単独でも併存でも健康状態の低下と強く関係していた(P<0.0001)。

 相関係数(このモデルでは相関係数が低いほど健康状態は低い)は、うつ病のみが-13.89、狭心症のみが-6.68、関節炎のみ-5.92、喘息のみ-6.54、糖尿病のみ-3.53。うつ病と狭心症が併存では-20.47、うつ病と関節炎で-16.77、うつ病と喘息-19.44、うつ病と糖尿病-23.43。身体疾患は複数あるがうつ病がない場合には-11.97で、そこにうつ病が併存すると-24.38となった。このように、うつ病の健康低下への影響は慢性身体疾患が及ぼす影響を上回った。

 プライマリケア医も、慢性疾患患者のうつ病有病率は高いこと、併存により健康状態が大きく低下することを念頭に置く必要がある。

 原題は「Depression worsens health more than angina, arthritis, asthma, and diabetes」、概要はこちらで閲覧できる。


大西 淳子=医学ジャーナリスト




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The Lancet 2007; 370:851-858

DOI:10.1016/S0140-6736(07)61415-9

Articles


Depression, chronic diseases, and decrements in health: results from the World Health Surveys


Saba Moussavi MPH a,   Dr Somnath Chatterji MD email address a Corresponding Author Information,   Emese Verdes PhD a,   Ajay Tandon PhD b,   Vikram Patel PhD c   and   Bedirhan Ustun MD a


Full list of collaborators at end of the paper


Summary


Background

Depression is an important public-health problem, and one of the leading causes of disease burden worldwide. Depression is often comorbid with other chronic diseases and can worsen their associated health outcomes. Few studies have explored the effect of depression, alone or as a comorbidity, on overall health status.


Methods

The WHO World Health Survey (WHS) studied adults aged 18 years and older to obtain data for health, health-related outcomes, and their determinants. Prevalence of depression in respondents based on ICD-10 criteria was estimated. Prevalence values for four chronic physical diseases—angina, arthritis, asthma, and diabetes—were also estimated using algorithms derived via a Diagnostic Item Probability Study. Mean health scores were constructed using factor analysis and compared across different disease states and demographic variables. The relation of these disease states to mean health scores was determined through regression modelling.


Findings

Observations were available for 245 404 participants from 60 countries in all regions of the world. Overall, 1-year prevalence for ICD-10 depressive episode alone was 3·2% (95% CI 3·0–3·5); for angina 4·5% (4·3–4·8); for arthritis 4·1% (3·8–4·3); for asthma 3·3% (2·9–3·6); and for diabetes 2·0% (1·8–2·2). An average of between 9·3% and 23·0% of participants with one or more chronic physical disease had comorbid depression. This result was significantly higher than the likelihood of having depression in the absence of a chronic physical disease (p<0·0001). After adjustment for socioeconomic factors and health conditions, depression had the largest effect on worsening mean health scores compared with the other chronic conditions. Consistently across countries and different demographic characteristics, respondents with depression comorbid with one or more chronic diseases had the worst health scores of all the disease states.


Interpretation

Depression produces the greatest decrement in health compared with the chronic diseases angina, arthritis, asthma, and diabetes. The comorbid state of depression incrementally worsens health compared with depression alone, with any of the chronic diseases alone, and with any combination of chronic diseases without depression. These results indicate the urgency of addressing depression as a public-health priority to reduce disease burden and disability, and to improve the overall health of populations.



Affiliations

a. Department of Measurement and Health Information Systems, World Health Organization, Geneva, Switzerland
b. Economics and Research Department, Asian Development Bank, Manila, Philippines
c. London School of Hygiene and Tropical Medicine, London, UK

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2020年までに、うつ病は疾病負担の第2位になると予想されている、という点は、最近あちらこちらで強調されていて、予算を振り分ける動機にもなっているようだ。

疾病負担というのは、Burden of Disease のこと。世界疾病負担(Global Burden of Disease:GBD)研究はWHOの得意芸である。
主に、疾病がどれだけ経済に影響しているかという観点で見たもの。病気になってどれだけ損をするか、予防すればどれだけ得をするということだ。

うつ病が経済に与える影響は実は大きい。
働き盛り、社会の中枢を支える人材、熟練労働者、組織のリーダー、几帳面、責任感強い、人望がある、組織・集団を大切にする、こんな人たちがうつ病になりやすいのだから、当然、社会の損失は大きいわけだ。

経済的損失だけではいけないだろうということで、最近では、QOLの観点からも数字が提出されている。各人の生活の質を合計したものが、社会の質のようなものになるだろうというのだ。

その観点からも、うつ病は大きな問題になる。うつ病であるということにより、QOLが低下するからだ。

統計で計算しやすいのは、寿命とか、そんなものだったけれど、疾病負担とか、生活の質とか、そうした観点が大切になってくる。

論文の中では、
decrements in health
associated health outcomes
overall health status
health, health-related outcomes
Mean health scores
the overall health of populations
などという言葉が並び、

訳出文の中では、
健康レベルの低下
健康状態、健康関連アウトカム
質問に対する回答に基づいて0~100ポイントで示した健康スコア
などが並んでいる。

Mean health scores were constructed using factor analysis 
とのことで、この内容が健康レベルということらしい。でも、内容についてはよく分からない。

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このあたりは重要で、最近、抗うつ剤の効果を比較検討する研究は、
(1)どんな患者群に対して、つまり、診断をどのように細分化するか、が問題。
(2)改善度を測定するとして、何を測定するのか、が問題。
ということになっている。

改善度については、
普通はHAM-Dなどを用いるが、もっと他の試みもあり、
主観的評価と客観的評価のどちらが重要なのか、どう組み合わせるのか、
治療脱落度を調べなければ、意味がないのではないかとか、
うつの症状を比較するだけではなく、QOL評価の方がいいだろうとか、
評価尺度の問題がいろいろと議論されている。
そのような流れでいうと、健康レベルとは何のことなのかということになるだろう。
健康スコアの定義によって、うつ病の重要度も変わってしまう。