上司としては役に立つ知識です。
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精神療法 33-5 : 45-51 2007
『発達障害と学生相談』 香川大学
はじめに
平成17年4月に 「発達障害者支援法」 が施行された。
この中には大学での支援についても触れられており、「大学および高等専門学校は、発達障害者の障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする」というように示されている。
平成19年度からは、特別支援教育も始まり、発達障害のある子供に対する教育環境の整備も整いつつある。
数年後には大学においても、小学校や中学校、高等学校で特別な支援を受けた児童、生徒が受験し入学してくるようになる。
そこで、本稿では、大学の学生相談の場において発達障害のある学生に対してどのように支援していけばよいのかということについて、その課題も考えながら検討していきたいと思う。
発達障害という言葉についてであるが、その定義が少し曖昧である。
本稿では、発達障害を、全般的な知的発達に遅れのない 「学習障害」 「注意血管多動性障害」 「高機能自閉症」 「アスペルガー障害」 として話をすすめていくことにする。
Ⅰ. 現状は
(省略)
障害のある学生に対する支援については、これまで身体障害のある学生を対象として支援が主に検討されてきた。
2006年の報告書から発達障害という項目が新たに設けられたことは、特筆すべきことである。
Ⅱ. 学生相談の場では
学生相談の場は、大学においては学生相談室や健康管理センターが主に窓口になっていることが多い。
このような相談の場を訪れるきっかけは、日頃接することが多い教職員からの紹介によるものと、本人からの訴えによる自主的な相談が考えられる。
大学が儲けている学生相談の場である学生相談室や保健管理センターが、発達障害のある学生やそれが疑われる学生に対しても相談の場として機能しているということである。
その一方で、新たな相談の場も増えてくるのではないかと考えられる。
それは、大学における特別支援教育を専門としている研究者への相談である。
筆者の研究室に、発達障害が疑われる学生が相談に来る場合、それは筆者が関係している特別支援教育に関する講義がきっかけになっている場合が多い。
特別支援教育に関する講義を通して学生自身が、自分が困っていることについての原因が発達障害に起因するのではないかと感じ、筆者の研究室に直接訪ねてきたり、電子メールを使って相談をしてきたりするケースが多い。
Ⅲ. どのような対応が求められるのか
では、そのような学生に対し、どのような対応が求められるのであろうか。
筆者が相談に乗った何人かの学生はいずれも診断は受けていなかったが、その相談内容は、大学生活の中で 「対人関係」や 「コミュニケーションの問題」、「生活の管理」、「レポート等の提出」 といったようなことであり、いずれの相談者も発達障害が疑われる学生であった。
つまり、実際には、発達障害という診断を受けている大学生よりも、発達障害の疑いのある学生の相談の方が多かったということである。
西村 (2006) は、「印象として大学に入学する学生で発達障害という診断を持ってくる学生は少なく、ほとんどが未診断のまま入学してきており、実際の学生生活がうまくいかず困り感をもち来談するケースが多いように思われる」と報告しており、筆者もまったく同じ印象をもっている。
このような場合、その学生は発達障害という診断を受けていないいないのであるから、障害の受容などは経ていないということになる。
相談を受ける際には、このことを十分に意識していかなければならない。
発達障害に関する知見を持ち合わせると同時に、その特性を理解した上での援助的な関わりをしていかなればならないということである。
まず、大学生活を送る中でどのような点に困っているのかを明らかにすることが大切である。
そして、困っていることに対してそれを解決できるような提案をしていくことが求められるのである。
Ⅳ. 自己効力感と自己有能感を高める
自己効力感と自己有能感はセルフ・エスティーム (self-esteem) という言葉で表現されることが多い。
セルフ・エスティーム (esteem : 尊敬、尊重と訳す) という言葉は、発達障害のある学生の相談を考える際のひとつのキーワードになる。
セルフ・エスティームについて森田 (1999) は欲求の 五階層理論を引用して次のように説明している。
要求の五階層理論では、
① 「生理的なニーズ」 (最低限の食物、睡眠、性、酸素、在宅など)
② 「安心・安全へのニーズ」 (恐怖や苦痛がないこと)
③ 「帰属感と愛情のニーズ」 (自分を受容してくれる家庭や仲間やグループ、愛し愛される関係のあること)
④ 「承認のニーズ」 (認められること)
⑤ 「自己実現のニーズ」 (社会的存在として自己の個性、能力、可能性を最大限に生かすこと)
のニーズがあるとしている。
そして、セルフ・エスティームをこの五段階の階層理論に位置づけ、④の「承認のニーズ」 に含まれるものであると述べている。
この 「承認のニーズ」 の基盤は、①、②、③ であり、これら 3つは、いずれも、私たちが生きていく上でその動機付けに大きく影響を与えるものである。
そして、これら 3つのニーズの上に、セルフ・エスティームを含む 「承認のニーズ」 が成立する。
そのニーズが満たされて初めて、⑤「自己実現のニーズ」 が生まれるとしているのである。
このようなことから森田は、「セルフ・エスティームを高めるためになによりも大切なことは安心感である」 と結論づけている。
このように、セルフ・エスティームを考えるならば、それを高めるために、安心感をもつことができるように相談にのっていく必要があるということになる。
「あなたはあなたで大丈夫だよ」 という安心感をもつことができるようにしていくことが大切なのである。
では、どのようにして安心感をもつことができるようにしていけばよいのであろうか。
Ⅴ. 自分の得意な面と苦手な面を明らかにする
発達障害の疑われる学生の相談にのるときに、筆者が特に意識していることは、その学生が得意としていることを明らかにし、ポジティブに考えらながら話を進めようにすることである。
相談に来た段階では、セルフ・エスティームが下がっている場合が多いと思われるので、自分にはよいところがあるということに気がついてもらえるように進めていく。
学生によっては、何に対してもネガティブに考える習慣がついてしまっているかもしれない。
しかし、ちょっと視点を変えることでポジティブなとらえ方に転換できる場合もあるということを伝えるようにする。
たとえば、「10分しか集中できない」 と考えるのではなく、「今日は 10分も集中できた」 と考えるようにすることを提案するのである。
また、同時に、今困っていることは何であるのかも明らかにしていかなくてはならない。
どようになことが苦手であり、その結果どのようなことに困っているのかということについて、その学生とともに考えてみる。
自分の苦手なことが何であるのかを知ることで、学生自身がそれに応じた手立てを考えることを可能にするためである。
対応する方法が見つかったら安心感も増すと考えられるからである。
Ⅵ. 具体的な提案を
学生自身が苦手なことが原因で生じるさまざまな生活上の困難を改善、克服することができるようにするためには、それらを解決する具体的な方法を知る必要がある。
学生の話を聴いて、しばらく様子を見るというような受身的な解決策ではなく、相談に来た学生が自らアクションを起こすことができるような具体手な提案をしていくことが大切なのである。
筆者のところに相談に来る学生たちの多くは、「○○ががうまくいかないのです」 などと具体的な課題を訴えてくることが多い。
彼らは困っている○○を改善、克服するために、自ら行動することができるような具体的な方法を身に付けたいと思っているのである。
それゆえ、具体的な方法を提案していく必要があるということである。
その際、大切なことは、苦手なことそのものを改善するように働きかけるのではなく、苦手であることが原因で、その結果として対応に困っていることについて、それを改善することができるように考えていくことである。
発達障害を直すという発想ではなく、発達障害とうまく付き合っていくという発想である。
つまり、発達障害が原因で顕在化している社会生活上の困難さを改善することができるような提案が必要なのである。
Ⅶ. どのような方法で
本人が困っていることや、得意なこと、苦手なことを明らかにしていく際に有効な方法の1つは、紙に書いて整理し、1つ1つ視覚的に確認しながら話を進めていくことである。
(省略)
多くの発達障害のある人たちが、聴覚的な情報処理に比して、視覚的な情報の処理の方が得意であると述べている。
当事者がそのように言っているのであるから、それらを参考にした支援の方法を考えることは重要なことである。
今、ここで対象としているのは大学生なので、今の日本のシステムの中で、大学まで進学してきている学生であれば、文字の読み書きについては一定以上の力は身に付けているであろうことは想像に難くない。
つまり、文字などの情報は支援を行う際に有効に使うことができるということなのである。
Ⅷ. 具体的な対応の例
ここまで、セルフ・エスティームを下げることがないようにすることの大切さと、その学生が自分の得意な面と苦手な面を理解し、それに応じた対応をすることができるように、具体的なアイデアを提案することの必要性を述べてきた。
ここでは、筆者が対応してきた具体的な例を紹介する。
ここで紹介する具体的な対応例は一部であるが、対応を考える際の参考にはなるのではないかと思う。
1. 優先順位をつける
相談に来る学生の中には、今何をすべきなのかの優先順位をつけることができず困っている学生が少なからずいる。
レポートなどの課題が出たときに、どのレポートから手をつけてよいのか分からなくなり、困っているような学生である。
いくつかまとまって出されたレポートのどれから手を着けてよいのかが分からず、そのうちに締め切りが迫ってきて焦ってしまっているという場合である。
なかには、提出期限までに出すことができなかったという話も聞く。
このような学生に対しては、自分で優先順位をつけることができるように具体的な方法を提案し支援していく必要がある。
まず、どのレポートからするのかといったことについて共に考えて優先順位をつけていく。
ここで大切なのは、優先順位をつけたときに、優先順位が高い理由をはっきりと伝えることである。
締め切りが近いものから優先順位を高くつけるというように理由をはっきりさせるのである。
そして、優先順位の結果は視覚的な情報にして意識できるところに書き留めておくようにする。
消えてなくなってしまわない情報にしておくのである。
筆者の場合は、付箋紙に書き込んで、それをスケジュール帳などにはっておくことを勧めるようにしている。
そして、終わったらその付箋紙を取り除いていくようにし、残っている課題が何であるのかを確認しやすくするのである。
スケジュール帳等に直接書いて、自分がしなければならない課題を確認するようにする方法でもかまわない。
携帯電話や PDA などの機能にあるタスクリストなどを使うこともできるであろう。
これらはとても当たり前のことのようだが、これらの方法の有効性に気がつかずに悩んでいる学生がいるのである。
同じ日に締め切りがあるレポートの場合は、筆者は、得意な方からするように勧めることにしている。
「どちらからでもかまわない」 と助言するよりも、「あなたの得意なこっちから」 と決めた方がよいようである。
2. レポートなどの課題を整理する
レポートや卒業論文を書くようなときに、どのように書いてよいのか分からない学生もいる。
自分の考えをまとめることができないということであろう。
中邑 (2006) は、そのような学生に対しては、パソコンで考えをまとめることができるようなソフトを使うことが効果的ではないかと述べている。
たとえば FREE MIND というソフトがある。
このソフトは自分の考えなどを画面上に整理して表示することができるので、視覚的にわかりやすく自分の考えをまとめることができるという点で、レポートなどを書く際に役立つのではないかと考えられる。
これらのソフトの力を借りて、自分の考えを図にして考えを整理するのである。
発達障害のある学生の中にはパソコンなどの IT機器については、高い興味と関心を持っている者は少なくない。
これらのソフトを苦にせず使用することができる学生も多いのではないだろうか。
実際に筆者も学生の考えを整理するときにこれらのソフトを使って視覚的に分かりやすくして見せるようにしている。
3. 日課を守る習慣を
相談に来た学生の中に、朝起きることができないために1時間目の授業に間に合わないことが多く、このままでは出席日数が不足し単位を得ることができないので、どのようにしたらよいのかという問題を抱えているものがいた。
この学生は、特別支援教育に関する授業を受けるなかで、今までの経験を照らし合わせて、自分には発達障害があるのではないかと感じ始め、苦手なことに気づき、解決策を求めて来談したのである。
この学生の場合には、筆者の研究室に朝挨拶に来るようにという課題を与え、挨拶に来ることができたときには、一緒にコーヒーを飲む時ガンを作るようにした。
自分ひとりでは意欲がわかない場合でも、そこに人が介在すれば、可能になることがあるということではないかと思う。
その後学生は、朝起きることができるようになり、「自信がついたので1人でやってみます」 というメールを送ってきた。
ゼミの担当教官にも確認したが、最近は表情もよく、遅刻もないということであった。
Ⅸ. 今後の課題
(省略)
おわりに
発達障害のある学生を学生相談の場でどのように支援していけばよいかということについて、具体的な支援の方法も提案しながら考えてきた。
しかし、まだましだ大学における支援は始まったばかりである。
小学校、中学校では特別支援教育に力を入れるようになってきている。
いずれ、高等学校、代価くと必要な支援を受けた学生たちが入学してくることになる。
そのときに、学生を理解したうえで対応ができるようにしておかなければならないのである。
大学で学んだ学生たちが、日本の社会を築くための力を身につけることができるように育て、送り出していかなければならない。
そこには、発達障害のある学生も含まれているということを忘れてはならないのである。
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いかがだろうか。
上司は
叱っているよりも、このような方向で、部下を伸ばして欲しいものだ。
最近の人たちはコンピュータや携帯の扱いは確実にうまいのでそのあたりから具体策をはじめよう。