職場での「心の健康管理」貢献に期待――「メンタルへルス・マネジメント検定試験」
2006年に誕生して以来、メンタルヘルス対策の一環として取り組む企業が増えているという「メンタルへルス・マネジメント検定試験」。その概要と活用実態を見てみよう。
2008年05月15日 13時50分 更新
多くの企業がメンタルヘルス対策の基盤としているのが、厚生労働省が提唱する「4つのケア」。4つのケアとは、社員個々によるケア(セルフケア)、管理監督者による部下へのケア(ラインケア)、社内保健スタッフによるケア、社外によるケアだ。
社内外の専門家によるケアはいいとしても、社員個々による「セルフケア」や管理監督者による「ラインケア」については、何をどこまでしていいのか分からないといった疑問もあるようだ。こうした背景やニーズを受けて誕生したのが「メンタルへルス・マネジメント検定試験」。メンタルヘルス対策の一環として取り組む企業も増えているという。
メンタルヘルスの不調を予防する環境作りを目指して
大阪商工会議所による「メンタルへルス・マネジメント検定試験」が初めて実施されたのは、2006年の10月8日。検定試験の立ち上げについて、大阪商工会議所の担当者は、「心の健康は、今や社会問題。当会議所では、4、5年前から何か企業に貢献できる対策はないかと模索していました。商工会議所は、簿記やそろばんなどビジネスに直結した検定試験を行っているので、メンタルヘルスに関する検定試験の実施を考えたのです」と話す。
「メンタルへルス・マネジメント」という新しいタイプの検定試験を企画するに当たり、検定の担当者たちは企業の人事労務担当者などにヒアリングして、ニーズの把握と確認をしたという。その結果、多くの担当者が「今まで努力してきたつもりだが、どのくらいケアできているか不安。習得度を測るものがほしい」と訴えた。
検定試験の目的は、従業員の心の不調を未然に防ぎ、健康を増進すること。そして企業や団体の各階層が、それぞれ必要なメンタルヘルスケアの知識や技能を習得するためのサポートだ。担当者によると、この検定はカウンセリングや治療といった、メンタル面のエキスパート育成を目的としたものではなく、心の健康のために持っておいてほしい知識を身に付けてもらうためのもの。その知識を心の健康を維持する企業の風土作りや、社内のコミュニケーションの活性化に生かしてもらうことが大切なポイントだとという。
検定試験は受験対象者のニーズに合わせ、経営幹部や人事労務担当者などを対象としたI種(マスターコース)、管理職・管理監督者のためのII種(ラインケアコース)、一般社員や新入社員のためのIII種(セルフケアコース)の3つがある。コースによってその目的や到達目標が明確にされているため、企業における職務や役割に応じて受験することができる。
種別 I種(マスターコース) II種(ラインケアコース) III種(セルフケアコース)
対象 人事労務担当・管理者、経営幹部 管理職、管理監督者 一般社員および新入社員
目的 社内のメンタルヘルス対策の推進
(事業所内ケア対策) 部門内、上司としての部下のメンタルヘルス推進
(ラインケア対策) 組織における従業員自らのメンタルヘルス対策の推進
(セルフケア対策)
到達目標 自社の人事戦略・方針を踏まえた上で、メンタルヘルス計画、産業保健スタッフやほかの専門機関との連携、社員への教育・研修等に関する企画・立案・実施ができる 部下が不調に陥らないよう普段から配慮するとともに、部下に不調が見受けられた場合には安全配慮義務に即した対応を行うことができる 自らのストレスの状況・状態を把握することにより、不調に早期に気付き、自らケアを行い、必要であれば助けを求めることができる。
※試験日程や内容については、大阪商工会議所検定試験センター(TEL06-6944-6141)へ
大阪商工会議所では、各コース別に公式テキストを用意し、受験対策セミナーなども開催している。その内容は、産業保健や人事労務管理といった観点から構成されているのが特徴。精神医学、臨床心理学、労働法学、産業心理学、組織心理学をはじめとした広いジャンルからバランスよくアプローチをすることにより、体系的に学べるように工夫されているという。試験の合否は別として、受講するだけでも十分な知識が得られそうだ。
知識の輪の広がりがメンタルヘルスケアの基盤に
この検定試験は、定期的に全国の都市で実施する「公開試験」と、企業ごとに行う「団体特別試験」の2形式を採用している。公開試験は、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の7会場で実施。今年は横浜と高松でも開催するなど、今後も全国へと拡大していきそうだ。また、団体特別試験を検討する企業も増えているという。こうした数字の伸びは、メンタルヘルスケアに関する必要性の高まりと比例しているといっていいだろう。
注:I種試験は第1回、第3回のみ実施 ※資料提供:大阪商工会議
実際、メンタルヘルスケアの知識を高め、心の健康管理の一環としてこの検定を活用する企業は増加している。公開試験を例に取れば、受験申込数も検定スタート時から今年3月までのわずか1年半足らずで、1.5倍近くになっている。
「受験者数を増やすことは本来の目的ではないものの、うれしい数字です。これからもこの検定をメンタルヘルスへの関心を高めたり、勉強するきっかけにしてほしいですね。そして心の不調に悩む人を少しでも減らすことにつながれば、と考えています」と担当者。
増加する検定試験受験者の中でも目を引くのが、部下たちの心の病気や不調を予防したり、早く気付きサポートするラインケア(II種)の役割を担う管理職者たち。これは社内のメンタルヘルス・マネジメント能力の向上を目指し、企業が受験を奨励するケースが多いことも大きな要因だろう。合格すれば受験料は会社が負担する、奨励金を出すといったケースも珍しくないようだ。
また、職場全体の活性化などを目指し、III種の受験を奨励する企業も着実に増えている。今までストレスを自分だけで抱え込んでいた人も、メンタルヘルスケアの知識を持つと、人に相談できるようになるという。早期にSOS発信をしてもらえば、周囲はすぐサポートすることができる。この好循環は、企業にとって大きなメリットとなるだろう。
合格率は昨年秋に実施した検定試験の場合、II種、III種ともに、60%以上をマーク。ただI種は、難易度が高く約15%にとどまっている。
合格者が中心になり心のケアを充実させる
ところで、「メンタルへルス・マネジメント検定試験」の合格者たちはどのような活躍をしているのだろうか? 担当者によると、合格者の中でも特に各部署の管理職者たちは、日常業務の中で、そのメンタルヘルスに関する知識や技術を生かしているという。相手が相談しやすい雰囲気作りに貢献できるなど、多くのプラス効果があるようだ。さらに「検定」によってメンタルヘルス・マネジメントのスキルが裏付けされるので、合格者は自信を持ってケアができるというわけだ。これも、検定の大きな意義といえるだろう。
※資料提供:大阪商工会議所
こうした人材は、前述のように日常業務で自他のストレスに対処するほか、社内のメンタルヘルス対策の基盤を作るリーダー的存在として活躍するケースもある。いずれの場合も、日常業務の中で人的資源の活性化や労働生産性の向上に貢献する、明るい材料になっているようだ。
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簿記検定、漢字検定、エクセル検定、MS検定、そしてメンタル・ヘルス検定という。「社内のメンタルヘルス対策の基盤を作るリーダー的存在、日常業務の中で人的資源の活性化や労働生産性の向上に貢献」とまるで株価優等生のキャノンだ。