ストレスを可視化するソフトで“新3K職場”の汚名を返上

ストレスを可視化するソフトで“新3K職場”の汚名を返上する

 「現場のシステム技術者のストレスを可能な限り減らす」。ITサービス業界では何度も叫ばれるセリフだ。

 情報システムがますます高度化・複雑化する一方で、ユーザー企業はさらなる開発の短納期化を求める。開発現場の過酷な現実は技術者を疲弊させ、生産性や品質を低下させる要因の一つになっている。頻繁に発生する仕様変更や繰り返されるテストによって、開発現場の労働環境は悪化するばかりだ。“新3K職場” という汚名を返上するためにも、技術者のストレスを削減する環境整備がITサービス業界には不可欠である。

 こうした中、ソフト開発会社のベストソリューション(東京都港区)から登場した、「潜在的抑うつ症早期発見ツール」とでも呼ぶべき製品が注目を集めている。

 このツールは在職者のストレス度合いを測ったり、新卒など新規採用のときに使ったりするときに利用するもの。在職者向けにはストレス度や職場の評価、抑うつ症状などを質問する。約8分で回答できる内容だ。新規採用者向けは性質や気質、適職、ストレス度、欲求などに関連した186項目の質問を用意している。回答時間は約15分程度で済むという。質問が終わると回答内容を分析し、ストレス度合いを可視化する。分析結果から、原因が職場や仕事にあるのか、家庭にあるのか、本人の性格に起因するのかを見つける。

 今は健康だが、ストレスをかけるとどうなるか。ある数値が高い人は、現実逃避の傾向が強くなり、何かトラブルが発生すると職場に来なくなる可能性がある、といったことも推測できるという。

 うつ状態などを判定する尺度には、米国の軍隊が徴兵時に使っている約50万人のデータを利用する。日本人と米国人の違いはないそうだ。

 ベストソリューションの乘浜誠二社長は、「同じ職場で似たような仕事をしているのに、うつ病になる人間と、ならない人間がいる。ストレスに強い人間と弱い人間がおり、ストレスの許容値が人間によって異なることを知る必要がある」と話す。ストレスに弱い人間は、職場に来ると次第に頭痛や吐気を感じるようになる。そして遅刻や欠勤などが目立ち始める。理由もなく不機嫌になったり無気力になったりする。管理者はうつ病へのサインを見逃さないように、部下とのコミュニケーションに注意を払う必要がある。

 ベストソリューションは、組織全体の最適配置を編み出すシミュレーションソフト「ReSAPIEN(リ・サピエン)を販売してきた。潜在的抑うつ症早期発見ツールは、リ・サピエンが備える機能の一つに過ぎなかった。だが複数のITサービス会社から、「この機能だけを欲しい」というニーズが出てきたため、今では「PODsystem」の名称で切り出し、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)形式で提供している。

 ストレスを可視化しただけでは意味はない。ストレスが高いようなら、産業医に面談させ原因を探らなければならない。職場環境が原因なら、休みを取らせたり職場を変えたりして、メンタルヘルスのケアを実施すべきだろう。うつ病にかかった場合には、回復プログラムも必要である。

 ベストソリューションはツール販売だけにとどまらず、うつ病に対する支援サービスも準備している。例えば、専門医の指導を受けて復帰に向けた回復プログラムを打ち出すとか、療養中の心配内容を精神保健福祉士に相談できる仕組みなどを考えているという。「森の中を歩く」など、ちょっとしたことがうつ病の回復につながるそうだ。

 「今はまだうつ病にかかっていない人も、まず自分のストレスの許容値を知り、部分的な対策でも打っていくことが大切だ。今後は健康診断のように、セルフチェックしていく時代になるだろう」(乘浜社長)。

 ITサービス業界に限らず、一般企業でも社員の約3%がうつ病患者で、約5%が予備軍というデータがあるそうだ。これを上回る数値が出たITサービス会社は、開発体制を抜本的に見直す必要があるだろう。うつ病の労災適用が増えている昨今、安全配慮への義務という観点からも、メンタルヘルスに対するケアが求められている。