統合失調症における「生活臨床」という概念は、1960年代に群馬大学医学部神経精神医学教室を中心として生まれたものでした。これは患者さんの障害を「生活」から見直し、働きかけようとしたもので、現在の生物学的研究・薬物医療中心の医師像からすれば、医師らしくないアプローチだったかも知れません。生活の現場を見るということは科学になり難く、もっと泥臭い部分ですから。ですが昨今、退院促進・社会復帰が謳われ、統合失調症のケアの場が病院から地域に移りつつある中、また見直され始めています。
再発の状況~能動型と受動型
そうすると、再発が起こるのは「患者さんが課題にぶつかって、それが上手く処理できない状況に陥ったとき」が多いことがわかってきました。もちろん断薬などの要因もありましたが、その断薬自体、「仕事をするから眠気が出たら困る」「結婚・出産を望んでおり子供に影響があったら困る」など、生活上の出来事や課題と深く関係していたのです。
ここで患者さんを二つのタイプに分けました。ひとつは自ら課題を見つけ、常に生活を拡大していく“能動型”。もうひとつは黙々と作業所やデイケアに通うなど、不満を表わすこともなく何年も同じ生活をする“受動型”です。能動型の患者さんは、いろいろな生活の変化に直面しやすく、そのたびにうろたえて、再発をしてしまう。受動型は周囲から「そんなことしてないで結婚しろよ」など、働きかけられると、動揺して再発してしまう。
このふたつのタイプに応じた働きかけが、再発を最小限に抑え、長期予後改善に結びつくのではないかと考えられたのです。
その結果、受動型への対処は「急激な変化を避け、変化するときには周囲が十分なサポートをすること」だと明らかになりました。
しかし能動型に対しては、どうやって生活の拡大を遮二無二しないよう抑えてもらうか、悩みました。最初のうちは診察室で「○○しちゃダメだよ」と言っていたのですが、そうすると「他の病院に行きます」なんて言われてしまうわけです(笑)。だから「今はダメだけれども、○○頃までにね」と期限をはっきり伝えるようにしたのです。例えば、結婚を望んでいる患者さんに「結婚は難しい」と言うのではなくて、「家事ができるようになってから、お見合いの話を持ってきてもらおうね」と言い換えるなどです。明確な期限と具体的な課題をはっきりさせ、本人の希望を実現させることを約束して、現実に立ち返らせてあげる。これがポイントでした。
(長谷川憲一)