ACT(アクト/Assertive Community Treatment:包括型地域生活支援プログラム)

ACTとは

ACT(アクト/Assertive Community Treatment:包括型地域生活支援プログラム)とは、1970年代後半にアメリカで始まった精神障害者地域生活支援プログラムです。 州立病院閉鎖時にその病院にいた職員がチームを組み退院患者を訪問、24時間体制でケアし始めたのがきっかけで、現在は全米の7割の州が認める精神保健福祉サービスとなりました。

ACTの有効性は多くの研究からも明らかにされ、「在院日数の減少」「地域での安定した生活・心理社会的リハビリテーションの促進」「当事者・家族の満足度が高い」などが確認されています1)。 現在はイギリス、オーストラリアなど世界各国で実践されつつあります。

ACTは「本人がいかに質の高い生活を送れるか」に焦点を当てましょうという基本姿勢を持ったサービスです。リカバリー(回復)とは、専門家から見た「状態のよいこと」ではなく、 障害を抱えた人が自分の体験として「快適な状態で、生き甲斐がある」と思えるようになることを言いますが、リカバリーはACTの基本理念の一つです。たとえば従来の医療者の視点では、 利用者に望むことは「服薬をきちんとし、余計なストレスは避けてもらいたい」ですが、それでは、就労も恋愛も止めたほうがいいことになりかねない。 「仕事も恋愛もせず、薬をきちんと飲んで5年間再発しませんでした」とすれば、医療データとしては再発率ゼロで、非常によい成績ということになります。 しかしそれはその人にとって本当に幸せな人生と言えるのかどうか。

ACTはチャレンジする機会、失敗する機会を大切にしようというスタンスをとっています。個人の価値観や希望を尊重し、その実現のために協働していくのです。病気のケアが人生の目標ではなく、 病気を抱えながらもやりたいことになるべくチャレンジして、その中で自分の限界と自分のできることを学んでいく。それに付き合っていくのが援助者としての在り方なんじゃないかということです。 そういうふうに精神科医療も少しずつ変わってきているところだと思います。

日本におけるACT(ACT-J)

日本でも国立精神・神経センターのある国府台(こうのだい)地区(千葉県)で、2003年4月からACT-J(日本版アクト)が実践研究中です2)。 ACTは特に家族と同居している患者が多いわが国で、家族の負担を減少し、かつ本人のQOL(生活の質)を上げることが期待されています。 また、欧米に比べ長い3か月程度の急性期入院治療は確保されますので、急性期症状の安定化を待ってから実施できます。

プログラム実施にあたっては、まず多職種でチームを組みました。構成は精神科医や看護師、作業療法士、当事者であった経験のあるピアカウンセラー、 あるいはご家族でコミュニケーションのトレーニングを積んだ人などです。チームスタッフ10名に対して100名程度の利用者を上限とし、利用者比率は「スタッフ1名:利用者10~12名」にしました。 そのチームスタッフが利用者を訪問し、医療・保健・福祉まで幅広い分野のサービスを提供します。例えば生活背景をよく知ったチームの精神科医が主治医として訪問し、生活を維持するためにちょうどよい処方を書くこともできます。 内科疾患があれば看護師が訪問してチェックしますし、ソーシャルワーカーやピア・カウンセラーが買い物の付き添い等の生活訓練や、就労支援も行います。重い精神障害を抱えている人を対象にしていますので、 夜中のオンコールもある24時間365日対応のシステムです