パニック障害も長引けば、うつの要素が徐々に出て来るという図。
パニック障害の経過 パニック障害の経過は、突然のパニック発作に始まる。発作を経験すると、再び発作が起こるのではないかという予期不安が形成される。予期不安のため、パニック発作が起こるかもしれない場所や乗り物などを意識的に回避するようになる。これを広場恐怖という。広場恐怖のため、外出できず家に閉じこもりがちとなり、社会生活に強い支障をきたすようになる。このために、自信を失い抑うつ的になる。この時期になると、パニック発作の頻度や強度はむしろ減少するが、抑うつ状態が主体になって慢性化する。パニック障害の薬物治療では、パニック発作や予期不安に対して適切な治療を行い、経過を慢性化させないようにすることを目標とする。
パニック障害にみられる不安の特徴は、前ぶれもなく、発作として突然起こり、その不安の程度がたいへん強いことです。しかも、多彩な身体症状を伴います。突然、激しい動悸がしたり、胸が締め付けられて息苦しくなって、「このまま死ぬのではないか」、「気が狂ってしまうのではないか」という恐怖心に襲われたりします。このため、しばしば救急車で受診するようなことになりますが、心電図等の検査を受けても異常が見つかりません。パニック発作は、通常10分以内に急速にピークに達し、長引いても1時間以内には消えてしまいます。
前ぶれなく起こることが特徴であると言いましたが、正確にいいますと、誘因となる状況なしに発作が起こるタイプ以外に、誘因となる状況(例えば電車に乗った時)があって、それに暴露された直後に必ず発作が起こるタイプや、誘因となる状況があって、それに暴露されると発作が起きやすいが、起きないこともあるようなタイプもあることがわかっています。
パニック障害の診断基準 | |
(1) | 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加 |
(2) | 発汗 |
(3) | 身震いまたは震え |
(4) | 息切れ感または息苦しさ |
(5) | 窒息感 |
(6) | 胸痛または胸部不快感 |
(7) | 吐き気または腹部の不快感 |
(8) | めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ |
(9) | 現実感消失、または離人症状 |
(10) | コントロールを失うことに対する、または気が狂うことに対する恐怖 |
(11) | 死ぬことに対する恐怖 |
(12) | 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感) |
(13) | 冷感または熱感 |
強い恐怖または不快を感じるはっきり他と区別できる期間で、その時、以上の症状のうち4つ(またはそれ以上)が突然に発現し、10分以内にその頂点に達する
不安の出現は、発作という急性の経過をとりますが、パニック障害は適切な治療を受けないで放置すると慢性の経過をたどる病気です。発作のあとに、多くの人は、「また、発作が起こるのではないか」と恐れるようになります。このような不安を予期不安と言います。予期不安のために、発作の引き金になるのではないかと思われる状況や、発作が起きたときに恥をかいたり危険にさらされても逃げるのが困難な公共の場(たとえば、交通機関、人混み、エレベータ)を避けるようになります。これを広場恐怖といいます。このようになりますと、家に閉じこもりがちとなり生活能力や社会適応性が重大な危機に瀕するわけですから、自信を喪失して抑うつ 的になってしまいます。抑うつについて付け加えていいますと、パニック障害では、慢性の広場恐怖の回避によっておこる反応性のうつ状態以外に、うつ病の合併がよくおこります。パニック障害にかかった場合、生涯に一度はうつ病にかかる可能性は25%から50%程度といわれています(あるいは、それ以上の 頻度との報告もあります)。パニック障害が先行して現れ、うつ病が続発するケースの方が多いのですが、うつ病がパニック障害に先行する場合もあります。アルコールの乱用もしばしば、問題になります。これは不安状態を紛らわせようとするためと考えられます。 パニック障害は、決してまれな病気ではなくて、人口の2%から4%がかかり、女性は男性より2倍かかりやすいといわれています。ライフ・ストレスが集中している状況下で、かかりやすくなるといわれています。しかし、パニック障害の原因について、その詳細はわかっていません。現在のところ、不安の中枢といわれている脳の青斑核や縫線核における神経伝達機能に変調をきたしていることが想定されています。このように、パニック障害は、機能性の障害ですから生命の危険などはなく、適切な治療で治すことができます。 パニック障害の治療では、不安発作や予期不安に対して適切な薬物治療を行い、経過を慢性化させないようにすることがきわめて重要です。それと同時に、リラックスした時間を多くもてるようにしたり、軽い運動をするようにして、ストレスをため込まないように心がけることが大切です。カフェインは発作を誘発するといわれていますので、コーヒーは飲まない方が無難です。 薬物治療では、ベンゾジアゼピン系抗不安薬や セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)を用います。ベンゾジアゼピン系抗不安薬では、アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス)が特に効果的とされ、よく用いられますが、作用時間が短いために頻回の服用が必要になります。頻回に服用できない場合や夜間に発作が起こるような場合には、作用時間の長いクロナゼパム(ランドセン、リボトリール)を併用することも必要になります。SSRIは、不安発作の防止には強い効果がありますが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が即効性であるのに対し、効果の発現には2週間程度かかります。ですから、初期の治療ではベンゾジアゼピン系抗不安薬とSSRIの併用が現実的です。パニック障害は、持続的な障害ですから、症状が改善してからも、半年から一年間の服薬の継続が必要です |