ジェイゾロフト:CYP阻害作用が弱い第3のSSRI
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)。日本で臨床使用されるSSRIとしては、マレイン酸フルボキサミン(商品名:デプロメール、ルボックス)、塩酸パロキセチン水和物(商品名:パキシル)に次ぐ、3剤目。
SSRIは、三環系や四環系の抗うつ薬で問題となる口渇や便秘などの副作用を軽減した新しい抗うつ薬として発売され、同様の特徴を持つセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)とともに、現在、うつ病治療の中心的な薬剤として使用されている。
セルトラリンは、1990年に英国で初めて承認され、その後、米国など世界109カ国(2006年4月現在)で発売されている。うつ病に対する作用機序としては、従来のSSRIと同様、脳内におけるセロトニンの再取り込みを選択的かつ強力に阻害し、シナプス間隙のセロトニン量を増加させることにより、抗うつ作用や抗不安作用などを発揮する。経口投与後、約6~9時間で最高血中濃度に達し、血中半減期(T1/2)が約23~24時間と長いことから、投与は1日1回である(フルボキサミンは1日2回投与、パロキセチンは1日1回投与)。
またセルトラリンは、他のSSRIに比べて、肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)に対する阻害作用が弱い点が特徴である。従来の2種類のSSRIは、CYPを比較的強く阻害するため、薬物間相互作用に注意が必要となる。具体的には、フルボキサミンはCYP1A2、CYP3A4、CYP2D6、CYP2C19を阻害し、パロキセチンはCYP2D6を阻害するため、これらで代謝される薬剤を併用すると、併用した薬剤の代謝が遅延し副作用が発現しやすくなる。これに対しセルトラリンは、CYP2D6に対する阻害作用はあるものの弱いため、薬物間相互作用が比較的生じにくいのではないかと考えられている。
さらに同薬は、プラセボを対照とした比較試験において、日本で初めて「うつ病・うつ状態の再燃抑制効果」が確認された薬剤である。もっとも、現時点でセルトラリンに認められている適応は「うつ病・うつ状態、パニック障害」であり、ほかのSSRIで承認されている強迫性障害や社会不安障害には適応がない(ただし世界的には、強迫性障害、社会不安障害、月経前不快気分障害の治療にも使用されている)。
このようにセルトラリンは、従来のSSRIとは異なった特徴を有するが、副作用(悪心・下痢などの消化器系の副作用が中心)や禁忌、慎重投与に関しては類似点が多い。したがって、セルトラリンを使用する場合にも、これまでのSSRIと同様、患者の状態を十分に確認した上で投与し、投与中も副作用の出現状況などをきちんと観察することが必要である。