EE(Expressed Emotion:感情表出)

家族-患者関係と統合失調症の再発率との関連は、1960年代から70年代にかけてのBrownらのEE(Expressed Emotion:感情表出)研究によって明らかにされました。

患者と同居している家族構成員の患者に対する思いや、対応の仕方をたずねる面接で、批判的なコメントが多い・拒否する・情緒的に巻き込まれ過ぎるなど、過度に侵入的な感情が多く表出されると評価された高EE家族と、そうでない低EE家族に分けてみると、退院後9か月間の再発率は高EE家族で51%、低EEでは13%と明らかに有意な差がありました。
 
EEという指標は、ある家族に対して常に一定の値を示すとは限りません。 また、家族側の属性と一方的に断言できるものでもありません。 例えば患者が暴力を振るう状況ですと、「批判」を中心とした家族のEEが高まり、また、家族が高齢なほど批判的なコメントが増えるという事実があります。 患者が初発間もない場合は、母親を中心に家族が情緒的に巻き込まれやすい傾向もあります。 これらが示していることは、家族にとって混乱、困惑するような症状があり、どう接したらいいかよくわからない状況だと、EEは高くなりがちであるということです。

さらに、家族が疲れたときに愚痴を聞いてくれる人がいないとか、あるいは代わりに患者を見てくれる人がいないなど、家族の負担感や困難感とEEとの間には、かなり高い相関があることもわかっています。

EEは変化し得る指標なのです。 別の例では、入院直後は「批判」を中心に家族のEEも高くなりますが、症状が落ち着いてくればEEは低くなります。 つまり変化し得るということは、必ずしも家族自身の性格や病理に関連する指標ではないということです。 むしろそのときの患者-家族間のコミュニケーションの質が、面接時の感情表出であるEEに影響を与えているといってよいでしょう。 高EEは「病因」ではなく、病気という困難によってもたらされるコミュニケーションの歪みの投影である、と捉えるべきなのです。

家族心理教育によって、いくつかあるEEの指標のうち、Emotional overinvolvement(EOI:情緒的巻き込まれすぎ)は対象群に比べずいぶん改善することがわかりました。Critical comments(CCs:批判的言辞)では対象群との間で有意差は見られませんでしたが、開始直後の入院時と退院時、退院9か月後の間には有意な減少が見られ、患者の状態が落ち着けば自然に改善していく傾向にあることがわかりました 。

高EE家族は患者のために何かしたくても、どう対処していいかわからず、ますます巻き込まれ、かつ敵意や批判も増えてしまう。そんな悪循環に陥っている方が多いのです。そこで、家族心理教育で体験談や対処法を聞き、専門家による情報提供とサポートを実感することで、孤立感が和らぎ患者との距離を適度に置くことができるようになる。それらがEmotional overinvolvementの改善に役立っていると思います。

(伊藤順一郎)