主観的QOL評価

主観的QOL評価

統合失調症においては、病識の欠如、認知障害などのために、患者さん自身によるQOLの評価は難しいとされてきました。しかし近年、多くの主観的な評価尺度の信頼性、妥当性が確認されています。

治療目標で重要となるのは、客観的なQOLと同様、患者さん自身の幸福感、満足度を高めること、つまり主観的QOLです。もちろん、病的な状態で患者さん自身が正しい判断のできない場合、あまりにも非現実的な目標を立てたりした場合には十分話し合う必要があります。

主観的QOLを調べる指標に、ドイツのNaberが開発したSWN(Subjective Well-being under Neuroleptic treatment)があります。患者さん自身に記入してもらうのですが、項目数もそう多くないので待合室で20分ほどでできます。これは基本的に薬物治療に対する評価ですが、他にも幅広い主観的QOLを調べるSF-36(Short -Form36 Health Survey)などもあります。

患者さんの主観的QOLを下げてしまう大きな要因には、主観的副作用(アカシジア、薬を飲んだときの不快感であるディスフォリア)、抑うつがあります。主観的QOLおよび心理社会機能に影響する各因子の関連をに示しました。関連の強さを線の太さで表しています。これまでのところ、主観的QOLに対する各因子の影響は、比較的短期間のうちに認められるのに対して、心理社会機能については、その影響が長期的経過の中で見られることが予想されます。また認知機能レベルは、心理社会機能と主観的QOLの関係に大きく影響します。認知機能レベルが低い場合は、心理社会機能が主観的QOLと正の相関を示すのに対して、認知機能レベルの高い場合は、負の相関を示します5)。心理社会機能が改善して、より社会に出ていく機会が増えますと、比較対象が病院内の患者さんから一般の人になります(response shift)。つまり認知機能レベルが高い場合は、環境の把握、自己分析、複雑な刺激処理が可能であるため社会に出て行く機会が多い。そこで高い基準を用いた自己評価を行う傾向がありますが、その心理社会機能は一般と比較すると低いため、主観的QOLは低下することになります。認知機能レベルが低い群では、そうした基準が設けられないために、主観的QOLはそれほど低下しません。

このことは、患者さんのリハビリテーションを進める上で、重要な示唆を与えてくれます。認知機能レベルの改善、心理社会機能の改善を追求していくうちに、知らず知らず患者さんを追い詰めてしまうこともあり得ます。これでは何のために治療しているかわかりません。そこで患者さん自身の感覚をよく聞きながら「無理をせず、徐々に社会復帰を」という慎重なサポートが必要です。

生活の目標についても、診察室で急に「何をしたいの?」と言ってもそれは難しい。ですから無理に聞き出すよりは、じっくり待ってもいいと思います。昔からの経過など一緒に話をしていく中で、患者さんが「自分は昔からこんなことをしたかった」と思い出すこともあります。私の経験から言うと、患者さんの多くが望んでいるのは仕事や学業に関してですね。遊んで暮らしたいという患者さんはあまりいません。真面目な方が多いですね。 (中込和幸)